2016年7月13日、「鉄の女」サッチャー氏に続き、英国史上2人目の女性首相に就任したテリーザ・メイさん(59歳)。華やかなファッションと「氷の女」といわれるクールな政治手腕が注目を浴びているが、別の方面からも世界中の脚光を浴びている。
日本の大手メディアはほとんど報じていないが、糖尿病の中でも特に重い1型糖尿病の患者なのだ。1型糖尿病の首相は世界初といわれ、日本の糖尿病患者たちにも「糖尿病だからとあきらめるな」と勇気を与えている。
1日に何度もインスリンを注射する1型糖尿病
1型糖尿病は、肥満や生活習慣の乱れなどが原因で起こる一般的な糖尿病(2型)に比べて発症率は非常に低く、糖尿病全体の1~2%。原因は不明だが、インスリン「製造工場」であるすい臓組織が破壊され、インスリンを作ることができなくなる病気だ。インスリンは血液の糖分を細胞に取り込んでエネルギーに変える働きがあり、インスリンがないと血液中に糖分があふれかえり、血管の壁がすぐ詰まる。心筋梗塞や脳卒中のリスクが高まるばかりか、糖尿病の様々な合併症を引き起こし、命の危険がある。
完治する治療法はない。そのため、1日に何度もインスリンを注射しなくてはならない。インスリンは「劇薬」なので、注射する際はしっかり血糖値を測定する必要がある。血糖値が上がりやすい食事は禁物だ。普通の糖尿病以上に厳しい生活管理や体調維持が必要で、スポーツなどの激しい活動や忙しい仕事は難しいと思われてきた。
「病気が大いに私を鍛えた。ユニークな挑戦でした」
日本の糖尿病患者や医療関係者でつくるウェブサイト「糖尿病ネットワーク」は2016年7月15日付で、「英国のテリーザ・メイ新首相は1型糖尿病 『糖尿病でも何でもできる』」と題して特集を組んだ。
それによると、メイさんが1型糖尿病を発症したのは、2012年11月、56歳の時だ。重い風邪にかかり、体重の減少が激しかったので精密検査すると1型糖尿病だとわかった。この年の夏にロンドン五輪があり、メイさんは内相としてテロ対策にあたり、ずっと帰宅が午前様の激務が続いていた。晴天の霹靂だったが、メイさんはくじけずに仕事を続けた。
英国糖尿病学会の機関誌「Diabetes UK」のインタビューにこう答えている。
「すぐに気を取り直し、インスリン注射を毎日4回行なうことを受け入れました。職務の都合上、人前で注射しなければならない時もあります。もちろん同席している人にそれが必要であることを伝え、断ってから行います。また、会食をとりながら会議をする場合が多くあります。下院議会の最中に議場で(栄養補給のため)食事をとらなければならない時もありました。私は内務大臣の仕事をしながら、糖尿病をコントロールし、体のコンディションを整える方法を学びました。病気により大いに鍛えられました。糖尿病とうまく付き合うことを学ぶのは、ユニークなチャレンジでした。糖尿病であることは、何に対しても障壁にはなりません」
英国には、スティーヴ・レッドグレーヴ氏という1984~2000年までのオリンピックで5大会連続ボート競技の金メダルを獲得したスーパー・アスリートがいる。彼は、最後の大会の前に1型糖尿病を発症、しかも潰瘍性大腸炎という難病まで併発しながら金メダルを獲った。メイさんはロンドン五輪の仕事を通じてレッドグレーヴ氏と知り合い、力をもらったという。
「非常に感動しました。糖尿病とともに生きながら、誰からも称賛される実績を積み重ねる方法を学びました。彼は人々に勇気を与えています」
「すごい女性。いい意味で『鉄の女』」と日本の患者
メイさんが新首相に就任した時、英国の一部メディアが「1型糖尿病患者が首相という激務に就くのはふさわしくない」と報道した。この時、英国糖尿病学会は「確かにメイ氏は、首相に就任した世界初の1型糖尿病患者である。だからといって、首相に適さないことは断じてない。1型糖尿病患者が深刻な健康上の条件を抱えていることは事実だが、良質なケアとサポートで管理できることを多くの患者たちが示している。メイ首相は糖尿病であることを公に示しており、世界中の糖尿病患者に夢を与えている」という声明を発表した。
「糖尿病ネットワーク」の記事で、メイ首相が1型糖尿病であることを知った同じ1型糖尿病たちは、ブログの中で次のように書いている。
「私と同じ1型さんでしたか。すごい女性、鉄の女。いい意味の、ですね。尊敬申し上げます」
「14歳で1型を発症した私。生涯、日に複数回のインスリンを注射しなければならない病気をあることをみんなに知ってほしいと、ずっと思ってきた......。メイさん、すごいわ~。糖尿病だからって、出来ないことはない、このことが広く知れわたりますように。今日(2016年7月19日)の私のブログを記念して漫画のスタンプ作っちゃいました。『政治家になりたいと思ったことある? 7月19日は女性大臣の日』」