もし、自分が入院することになった病院の前に「葬祭会館」があったら――そんな状況が、静岡県伊豆の国市で現実になりつつある。
葬祭会館の建設予定地は、病院から2車線をへだてたすぐ向かい側。現在は稼働中の生コン工場の移転後の跡地を使う計画だ。会館側業者らによる住民説明会では、「資産価値が下がる」「患者の心を軽視している」などと地元住民や病院側の強い反発があったという。一方、業者側は建設推進を前提に「計画を作り上げるうえで(住民に)配慮したい」との姿勢を示している。
住民説明会では反発も
「ただ単に迷惑なだけで、患者に申し訳ない」――2016年7月19日、J-CASTニュースの取材にこう話したのは、予定地の目の前にある慈広会記念病院の担当者だ。長期療養型の同院は65歳以上の患者が9割以上を占め、なかには100歳を超えている人もいるという。
この担当者によると、葬祭会館の「建設計画」を初めて聞かされたのは2014年7月の住民説明会。施主で冠婚葬祭互助会業の平安(沼津市)や県内の建設会社、生コン工場の管理会社の計3社が開いた。業者側は詳しい建築計画をその場で明かさず、工場が移転して新たに葬祭会場が建設されるとだけ説明。施設の性質や立地の面から、出席していた地元住民は猛反対し、議論は平行線をたどったという。
14年の住民説明会の後、一向に生コン工場が移転する気配はなく、しばらくは何の動きもみられなかったが、15年12月頃、生コン工場の移転先とされる場所でにわかに工事が始まった。一連の動きは、地元の伊豆新聞(電子版)が16年7月15日に報じるなどしている。
さらに7月16日には、再び住民説明会が開かれた。業者側が平安と建設会社の2社になった一方、この病院担当者によれば、説明会の内容は2年前とほぼ変わらなかった。「なぜ病院の目の前に建てる必要があるのか」「具体的な建設計画を示してほしい」といった住民側の質問・要求に対し、「業者側は答えず、話し合いにもならなかった」。病院関係者以外の住民からは「資産価値が下がる」といった抗議も上がったという。
「患者の心と命を軽視しているとしか思えません。しかも、住民説明会で業者に見せられた葬祭会場の設計図では、当院の入り口付近に霊柩車が出入りすることになっているんです。企業の道義的責任はあるのかと思います」
とはいえ、まだ具体的な建築計画は聞かされていない。取材時点でも生コン工場は稼働しており、「本当に建てるんでしょうか、という印象も拭えません」と担当者は不審がる。
市役所「道徳的・倫理的に判断する類のものではない」
一体、どういったプロセスでこの建設計画は持ち上がったのか。J-CASTニュースが7月19日に取材した平安の担当者は、「会社としての全体計画の中で決まった」と多くを語らなかった。立地の選定についても、
「当社の用地を紹介して下さる県内の建設会社に探してもらいました。生コン業者さんと直接お話をしたわけではありません」
と説明。ただ、葬祭会館の建設は「既定路線」のようで、
「反対の声があることは承知していますが、計画を作り上げる上で(住民に)配慮したいです。行政の判断もあるので詳細な着工期日は未定ですが、工場が移転すれば早めに着工したいと考えています」
と説明する。伊豆の国市役所への正式な建設申請も、その建設会社を通じ「2年前」(住民説明会が開かれる前)に済ませているという。
一方、伊豆の国市都市計画課の担当者は19日の取材に、「(業者側から市役所に)正式な書類申請はない。現在、面積や用途を含めた建設計画書を提出するよう業者側に申し込んでいる段階だ」と平安側と異なる認識を示した。
一方、建設そのものについては「当該区域は市街化区域なので、条例に違反していない限りこちらも口出しできない」と静観する構えを示した。反対の声に対しては
「私はそうは思わなかった。道徳的・倫理的に判断する類のものではない」
との見方を示した。
建設会社へも20日に取材を申し込んだが、「担当者が終日不在にしている」とのことで話を聞けなかった。