与党が大勝した参院選と同じ2016年7月10日に投開票があった鹿児島県知事選で、新顔の元テレビ朝日コメンテーター、三反園訓(みたぞの・さとし)氏(58)が、4選を目指した現職の伊藤祐一郎氏(68)を破って初当選を果たした。
三反園氏は国内の原発で唯一運転している九州電力川内原発1、2号機(同県薩摩川内市)について「一時停止・再検査」を求める考えを掲げて選挙を戦っており、川内原発の先行きに不透明感が漂っている。訴訟を含めて政府の再稼働路線に待ったをかける動きが続いているだけに、国のエネルギー政策にとっても新知事の動向は大きな意味を持ちそうだ。
「反原発」派と共闘
鹿児島県は郡部を中心に保守層の強い地域だ。実際、知事選と同日投開票の参院選鹿児島選挙区では、自民党現職が43万票を得て野党推薦候補(21万票)にダブルスコアで圧勝した。ただ、原発に疑問を持つ層が少なくないのは事実で、前回2012年知事選では、反原発派の新人が3選を果たした伊藤氏に敗れはしたものの、約20万票を得た。今回の参院選でも野党側が得たこの「約20万票」が、反原発に共鳴する層と重なっているとみられる。
今回の鹿児島県知事選で、反原発団体の擁立する新顔、平良行雄氏が今(16)年5月に立候補を表明したものの、選挙戦直前に立候補をとりやめ、三反園氏と原発を含む主要政策で合意し、反現職が三反園氏に「一本化」した。告示6日前の6月17日のことだ。三反園氏自身は保守系無所属を標榜していたが、反原発団体と共闘することになった。その結果、三反園氏が42万票を得て、伊藤氏の34万票に8万票以上の差をつけたわけだが、まずはこの反原発の20万票が「土台」となったようだ。
さらに、現職に対する「飽き」も三反園氏を後押しした。地元ニュースで常にスポットライトを浴び、各方面に権力をアピールできる現職が強いのが知事選の常だが、13年目に入る4選に挑むとなると、住民の評価も分かれる。今回の選挙で、総務省出身の伊藤氏は「上から目線の元官僚」などと、かなり批判を浴びたが、そのキャンペーンが浸透する素地はあった。伊藤氏への反発が保守分裂を招き、三反園が勝利を呼び寄せたわけだ。
知事に原発を止める法的権限はないが、立地自治体のトップとして影響力は大きく発言は重い。実際、東京電力ホールディングスが柏崎刈羽原発(新潟県柏崎市・刈羽村)をこれまで再稼働できていなのも、泉田裕彦同県知事の反対姿勢が強いからに他ならない。逆に、川内原発は伊藤氏が鹿児島県知事としていち早く再稼働を容認したことが早期の再稼働に道を開いた。
九電、経産省内でも警戒感強まる
先述したように国内で稼働する原発は川内原発1、2号機のみで、その川内原発も10月以降に定期検査に入る。関西電力高浜原発3、4号機(福井県高浜町)は再稼働直後の3月、大津地裁の運転差し止め仮処分決定で稼働停止になったまま。四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)は7月下旬にも再稼働する予定だったが、冷却水ポンプの不具合で8月以降にズレ込む見通しだ。
原発新増設が見通せないなか、2030年度の電源構成で原発を20~22%とする政府目標を達成するには各地の原発の再稼働が欠かせないが、さまざまな要因で待ったがかかっている。菅義偉官房長官は記者会見で「(鹿児島の)新知事とお会いして話をうかがいながら進めていきたい」と述べ、積極的に協議を進める考えを示した。「よく考えを聞いてみないと、どうすればいいか分からない」。九州電力や経済産業省内でも三反園知事誕生に警戒感が強まっている。
ただ、三反園氏の立場は微妙だ。選挙戦を通じて「原発のない社会を目指す」とは掲げたものの、原発推進派の自民系議員ら保守層からの支援も得ての当選だけに、当選後は「いろんな人の意見を聞きたい」などと言葉を選ぶ場面が目立つ。最近では質問がない限り自ら進んで原発を語ろうとはしないようだ。とはいえ、「反原発票20万」の重みがあるだけに、反原発団体から突き上げられればある程度動かざるを得ないと見る向きもある。いずれにせよ、伊藤知事時代と原発に対するスタンスが変わるのには違いなく、各方面から三反園氏の「次の一手」が注目されている。
7月20日配信の朝日新聞デジタル記事は、「三反園氏、川内原発一時停止申し入れへ 『8月中にも』」との見出しで、三反園知事のインタビュー記事を載せた。