がんに対する免疫研究が進んでいるが、その関連から日本の「丸山ワクチン」が注目を集めている。丸山ワクチンは、日本医科大学の丸山千里教授(皮膚科)が開発した結核菌抽出物質で、国の正式な認可を得ないまま約50年前から多くの患者に使われている。
2016年7月10日、日本医学協会主催の医療問題懇談会が東京で開かれ、高橋秀実・日本医科大学教授(微生物免疫学)が「丸山ワクチンの作用機序と展望」と題し、最新の状況を講演した。
樹状細胞の変換を誘導している可能性
高橋さんによると、最新免疫学は、2011年にノーベル医学生理学賞を受けた米ロックフェラー大学のR・スタインマン博士が約40年前に発見した樹状細胞が焦点だ。免疫の中心と見られたキラーT細胞のがん細胞攻撃力が弱いため、がん細胞を殺すには毒性の強い抗がん剤しかないと考えられてきた。ところが研究が進み、実は樹状細胞が免疫の中心細胞で、キラーT細胞の指令役とわかってきた。正常細胞とは異なるがん細胞のマークを樹状細胞がキラーT細胞に示すと、キラーT細胞ががん細胞を攻撃する。2種類ある樹状細胞の1つを活性化すると攻撃力が高まることもわかった。
高橋さんらは、丸山ワクチンは樹状細胞を活性化させて効くのではないかと考え、動物実験や分析研究を始めている。結核菌にはたしかに樹状細胞を活性化させる作用があり、とくに脂肪分に有効性があった。実験では脂肪分を24時間ごとよりも48時間ごとに与える方が、がん抑制効果が高かった。
丸山ワクチンは結核菌の免疫活性物質を精製したものだが、脂肪分も残っている。丸山ワクチンは濃度の違うワクチンを1日置きに打つが、高橋さんは「濃度を変えたり、1日置きに打つ方が効果が高いことをひょっとすると丸山先生は気づいていたのではなかったか。いずれにせよ、丸山ワクチンが樹状細胞の変換を誘導している可能性があり、もっと研究を進める必要がある」と強調した。(医療ジャーナリスト・田辺功)