がんに関する日本の新聞報道は、医療ミスや裁判、著名人のがんなど社会問題として取り上げる記事は多いが、予防や早期発見を訴える啓発的な記事は極めて少ないという研究を、早稲田大学スポーツ科学学術院・岡浩一朗教授の研究室がまとめた。
論文は、国際健康情報誌「Health Communication」(電子版)の2016年6月17日号に発表された。
医療事故、訴訟など社会問題が最多
研究では、2011年の1年間に全国紙5社の朝夕刊に掲載された、がんに関する5314件の記事を抽出、内容に応じて記事を分析した。それによると、取り上げたがんの部位別では、肺がんがトップで575件、ついで白血病331件、乳がん302件、肝がん261件......と続く。しかし、この順番は実際の年間死者数の多さとは一致しておらず、死者が多い大腸がんや胃がんの記事が少なかった。
記事をテーマ別にみると、医療事故やミス、訴訟などの社会問題がもっとも多く797件(15.0%)、次にがん関連の本や映画、イベント開催が762件(14.3%)、がんになった芸能人など著名人の話題が650件(12.2%)と続く。また、東日本大震災があった年でもあり、震災とがんの記事も653件(12.3%)あった。
早期発見の重要性訴えた記事はわずか1.8%
一方、がんの治療や回復、終末期に関する記事は399件(7.5%)あったが、生活習慣による予防法を説いた記事は86件(1.6%)、また検診や早期発見の重要性を訴えた記事は98件(1.8%)しかなかった。
この結果から、岡教授は「我が国の新聞のがん報道は、社会問題に偏っており、もっと米国や英国、中国の新聞のように予防と啓発に焦点を当てる情報を発信すべきです」と報告している。