天皇陛下が「生前退位」の意向を宮内庁関係者に示した、とNHKをはじめ各メディアが2016年7月13日から14日にかけて報じた。ただ、皇位継承や摂政に関して定めた法律「皇室典範」には退位に関する規定はなく、現状では存命中の皇位継承はできない仕組みだ。
過去の国会審議では「天皇も人間ですから、天皇の人権にかかわる大きな問題」などとして退位を認めるよう求める声がたびたび上がってきたが、そのたびに歴代の宮内庁担当者は、退位が認められる仕組みになっていない3つの理由を説明してきた。今後、皇室典範改正に向けた動きが活発化しそうだが、この3つのハードルをクリアすることが前提条件になりそうだ。
退位の規定がない旧皇室典範を継承
皇位継承については憲法第2条に
「皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する」
と定められており、皇室典範には第4条に
「天皇が崩じたときは、皇嗣が、直ちに即位する」
とあるのみだ。
1889年に定められた旧皇室典範には退位に関する規定はなく、皇位継承は天皇の逝去を前提にした制度になった。1947年に施行された現行の皇室典範は、旧皇室典範を継承している。
「天皇の地位を安定させるということが望ましいという観点」
国会では、退位の制度を設ける求める声がたびたび上がっている。例えば01年11月に参院で開かれた「共生社会に関する調査会」では高橋紀世子議員(当時)が
「天皇自身が望まれたときは、退位なされるようにした方がいい」
と問題提起。それに対して宮内庁の羽毛田信吾次長(当時)は、(1)退位を認めると歴史上いろいろ見られたような、いわゆる上皇や法皇的な存在というものの弊害が出るおそれがある(2)必ずしも天皇の自由意思に基づかない退位ということの強制があり得る(3)天皇が恣意的に退位する懸念がある、などと説明。
「天皇の地位を安定させるということが望ましいという観点から退位の制度を認めないということに現行法はなっている」
とした。1992年4月の参院内閣委員会、1991年の3月の衆院予算委員会第1分科会、1984年4月の内閣委員会でも、歴代の宮内庁次長が3つのポイントを挙げていた。
退位ができないのは「院政」をはじめとした政治的な動きを皇位継承に波及させないための工夫だとも言え、皇室典範を改正して「生前退位」を可能にするためには、こういった課題を解決する必要がありそうだ。