今日(2016年7月14日)告示の都知事選は、究極の後出しじゃんけんがあった。最後に名乗りを上げたのが、鳥越俊太郎氏だ。なんと、先に名乗り出ていた宇都宮健児氏は辞退せざるをえなくなって、鳥越氏が名実ともに、民進党や共産党の野党4党の統一候補になった。
一方、自民党と公明党は増田寛也氏を推薦しており、主要候補の中では一番早く名乗り出た小池百合子氏と分裂選挙となった。国政での与党の分裂、野党の共闘となって、都知事選は野党にとって、参院選での与党勝利への逆襲の場として「江戸の敵を長崎で」という状況だ。
鳥越氏が有利な点
参院選が終わったばかりなので、組織選挙はかなり不利だ。選挙運動は、基本的にマンパワーを要する肉体労働であるが、参院選でもうヘトヘトになっており、猛暑に入っていることもあり、従来の組織力はあまり機能しないだろう。もっとも、野党の組織力は相対的に強く、なんとしても一矢を報いたいので、野党統一候補の鳥越氏は有利になるだろう。
ただ、カギを握るのは圧倒的な浮動層である。この意味で、これまでの都知事選では知名度の高い人が後出しじゃんけんをして勝ってきた。ここでも、鳥越氏の相対的に優位だろう。
問題は、後出しじゃんけん過ぎて、公約などが準備不足である事だ。会見をしても具体的な話が出てこず、まさにテレビのコメンテーター状態である。
テレビ関係者は鳥越氏が先輩であるので、厳しい質問もせずに、温かく見守っている状況に筆者には見えた。さすがに、他候補もいる共同記者会見で「ガン検診100%」を公約として掲げたのには、「あれっ」と思った。「日本は30%ぐらいしかない。東京都もそういう低いレベルです」というが、東京都の検診率は40%程度である。都福祉保健局のサイトをみると、胃がんなど5種類のがんについて、いずれも40%前後となっている。ガン検診を目標に掲げるのなら、東京都の実情くらいはしっかり頭に入れておくべきだろう。鳥越氏は数字が苦手なのだろうが、それで大丈夫なのか。
東京都が抱える資産への姿勢は?
かつて筆者は、関西のテレビ番組で、「国の借金1000兆円は国の資産を考えるとたいしたことはない」と説明した。そのとき、同じ番組に出ていた鳥越氏は、資産でも売れないモノがあるという、財務省のいつもの反論を言ってきた。これに対して、筆者の答えは二つある。ひとつは資産の多くを占める金融資産は容易に売れる。もう一つは「借金は基本的に返さない」である。後者は、借換債を発行して借り換えを続けていくという意味で、国にとって返さないのであって、国債保有者からみれば返してもらっている。後者は短いテレビの時間では説明不十分になるので、前者の「資産も売れる」と返答することが多く、そのときも売れると答えた。
鳥越氏は、税金の使い方が重要だと、記者会見で何度も強調していた。であれば、東京都の抱える資産30兆円はどうするのか。残念ながら、この資産の一部は、都民ではなく都庁職員のために活用されている。各種法人への多額の出資が維持され、こうした法人は幹部職員の天下り先となっているのだ。東京都の資産についても、売れないと官僚擁護の答えをするのだろうか。もしそうであれば、鳥越氏は、一部の官僚エリートのための左翼になってしまうだろう。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわ
ゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に
「さらば財務省!」(講談社)、「図解ピケティ入門」(あさ出版)、「マイナス
金利の真相」(KADOKAWA) など。