「妊娠中に運動をすると早産になるのではないか」と心配する人は多いが、早産は増えないばかりか、帝王切開などが減り、安全なかたちで出産できることが最新研究でわかった。
それどころか、生まれてきた赤ちゃんの頭がよくなり、また、母親も妊娠中の糖尿病や高血圧のリスクが減るし、母子ともども「いいことづくめ」であるという。ぜひ、体を動かそう。
妊娠中の糖尿病と高血圧が減り、自然分娩がアップ
妊娠中の運動が安全な出産に貢献するという研究をまとめたのは、米トマス・ジェファーソン大学のチーム。米産科婦人科学会誌「American Journal of Obstetrics & Gynecology」(電子版)の2016年7月7日号の論文を掲載した。
研究チームは、妊娠中の運動が妊婦の健康におよぼす影響について調べた9件の論文のデータを対象に、計2059人の妊婦をよく運動をした1022人と、まったく運動をしなかった1037人にわけて分析した。運動グループは、妊娠10週目から出産直前の37週目にかけて、1回あたり35~90分の運動を週に3~4回行っていた。運動の内容は、ウォーキング、水中エアロビクス、ヨガ、ピラティス、自転車こぎ、筋トレなどだ。
その結果、次のように運動をしていた人の方が健康な出産をした。
(1)早産の割合は、運動をした人としなかった人の間で差がなかった。
(2)帝王切開が必要となった割合は、運動をしなかった人は22%だが、運動をした人は17%しかいなかった。
(3)また、普通分娩の中でも吸引や鉗子(かんし)器具に頼らない自然分娩の割合は、運動をしなかった人は67%だが、運動をした人は73%と高かった。
(4)分娩時に鎮痛剤を要求する割合は、運動をした人はしなかった人より58%少なかった。
(5)妊娠中は、胎児に糖分の栄養補給を行なう必要があるために、妊婦の血糖値が上昇し、「妊娠糖尿病」になりやすくなる。妊娠糖尿病の発症率は、運動をしなかった人は5.9%だったが、運動をした人は2.4%と半分以下だった。
(6)また、「妊娠高血圧」にもなりやすくなるが、妊娠高血圧の発症率は、運動をしなかった人は5.1%だが、運動をした人は1.9%と約3分の1だった。
赤ちゃんの脳の成長がロケットスタート
このように妊娠中の運動は母体にいい影響を与えるが、健康効果はこれだけにとどまらない。2013年11月にカナダ・モントリオール大学が発表した研究によると、お腹の中で赤ちゃんの脳の成長を早めてくれるという。
研究グループは、5~7か月目の妊娠中期に当たる女性を、「週3回20分程度の運動をする」グループと「まったく運動しない」グループの2つにわけた。運動は、ウォーキングや軽いジョギング、水泳など少し息が切れる程度の有酸素運動だ。そして出産後8~12日目に、それぞれのグループの赤ちゃんの頭に器具をつけ脳波を調べた。
器具は、124種類の軟らかい電極が付いた特製のキャップで、睡眠中の赤ちゃんに様々な音を聞かせた。初めて聞く音や、母親の鼓動などの馴染みの深い音を流し、赤ちゃんがしっかり区別できているかを脳波の反応で検査した。その結果、運動をした母親の赤ちゃんの脳は、運動をしなかった母親の赤ちゃんの脳より効率的に様々な音を区別し、聴覚記憶能力が優れていることがわかった。
研究チームのダイエル・カーニア教授は「実は、動物実験で同様の結果が得られたため、人間を対象にした初めての試みだったのです。妊娠中の運動が母体にいい影響を与えることはこれまでの研究で明らかですが、生まれる前の胎児の脳の成長を早めていることが確かめられました。次は、1歳児の脳にどんな影響を与えるか研究したい」とコメントしている。