「9.11」の暗転がバングラデシュにやってきた――ダッカ・テロ事件の背景にあるもの(上)
聖心女子大・大橋正明教授に聞く

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9.11後の「世界の暗転」がバングラデシュにやってきた

――バングラデシュではイスラム教徒が約9割を占めていますが、他宗教にも寛容な「世俗主義」との国柄でしたよね。経済成長に伴い、宗教的な流れも変化しているのでしょうか。

大橋教授   いわゆる西欧社会とイスラム社会という対立軸ですが、バングラデシュの人々は、伝統的にはそのようには考えない人たちでした。聖地メッカからも離れているし、他宗教、特にヒンドゥー教徒と仲良く長年暮らしてきた柔軟さがあったんです。しかし、徐々に「イスラム」という意識が持ち上がってきた。
1971年の独立後、政権を握ったアワミ連盟は完全な世俗主義、つまり非宗教主義でした。1980年からBNP(バングラデシュ国民党)が政権を握って以降、次第にイスラム教を国教に戻していきました。その後、この2つの政党が何度も入れ替わっていくのですが、その過程で、もともとの世俗主義がだんだんと薄れ、国民を統合するのにイスラムが使われていきました。ただ、過激なものではありませんでした。

――今回のテロの実行犯はイスラム過激派組織の若いメンバーとみられています。過激思想が国内で広がりつつある理由はどこにあるのでしょうか。

大橋教授   私はこれを、9.11(2001年のアメリカ同時多発テロ事件)でアメリカがアフガニスタンに戦争に入ったことが直接のきっかけとみています。
(9.11のテロ組織「アルカイーダ」リーダーの)ビンラディンを捕まえるだけだったら、私はアメリカとイスラムの関係はそんなに悪くならなかったと思っています。けれど時のブッシュ大統領は「十字軍」という言葉を使い、警察行動ではなく軍事行動を起こして根こそぎやってしまった。あれ以来、世界の大きな暗転が始まって、それがついにバングラデシュにやってきてしまったというふうに考えています。
よく「グローバル化するとナショナリスティックになる」という言い方をしますよね。日本でも経済がグローバル化する一方、中国などに負けている部分があるから、ヘイトスピーチに代表されるようなナショナリズムの風潮が高まっているでしょう。同じように、バングラデシュも経済成長する中でグローバル化していく。
そうすると「僕たちは何なんだ」って考えます。その時に「バングラデシュ人というよりイスラム教徒だ。ISが言うようにやってみようじゃないか!」という過激思想に走る感覚は分かりますよね。「そうしないと強い力に勝てない。そうじゃないと西洋化されてしまう」と思うんです。
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