経済成長が続き「不正」「腐敗」が蔓延
――「アジアの最貧国」という枕詞で語られることが多いですが、もはやそのイメージには当てはまらなくなってきているということですね。急激な経済成長によって国民の生活はどのように変化したのでしょうか。
大橋教授 30年くらい前までは餓死する人もいましたが、今では貧困で飢える、ということは例外的なケースを除いてはなくなりました。国民所得も1人あたり1000ドル程度になっているでしょう。地方都市も発展しているし、農村にも大きな家はあります。
しかし、経済成長が続くということは多くのひずみも生じるということです。貧富の格差が広がり、社会の不正や腐敗も蔓延する。
2013年の「ラナ・プラザ事件」は、まさに不正・腐敗の典型的な事件でした。ダッカ近郊のサバールで、縫製工場などが入居する8階建てのビル(ラナ・プラザ)が一瞬のうちに倒壊し、約1100人もの女性労働者が亡くなったのです。オーナーは建築基準を守らず、役人にお金を払って見逃してもらっていた。ビル内には前日に亀裂が見つかり、労働者は働くのを拒んだのですが、「お前クビにするぞ」と強制的に働かされていました。
結局、ラナ・プラザでは事件が起きたから、色々と改善の動きがみられたけれど、それ以外にも改善すべき事故はたくさんあったわけです。
――そうした劣悪な労働環境で働かざるを得ない状況がある中、若者たちの就職事情はどのようになっているのでしょうか。
大橋教授 経済が豊かになっても、まだまだ仕事の数は不足しています。全体として就職率がよくなっているわけではありません。そうすると、やはりコネや賄賂を使わないと就職できないわけです。裕福層の若者でも、たとえば公務員になるためには、やはり儲かりますから、たくさんお金を払わなければならない。
なかなか就職できなかったり、就職しても賄賂など不正にぶつからなくてはならなかったりというのは、若者たちの心をすごく痛めますよね。