おそらく、日本の夏の麺料理といえば「そうめん」を思い浮かべる人は少なくないだろう。氷水や流水をくぐらせた、まっ白で細いそうめんは清涼感がいっぱいだ。
そんなイメージとは反対に、夏にも「うどん」を食べる人が増え、「そうめん」人気が薄らいでいるようなのだ。
夏場の「乾麺」が不利である理由
農林水産省の食品産業動態調査によると、2016年4月の生麺類の生産量(小麦粉使用量)は、前年同月と比べて2.3%とわずかに増えた。一方、乾麺類の生産量(同)は、うどんやひやむぎ、そうめん(手延そうめんを含む)の減少が原因で8.2%と大きく減った。
生麺類の生産は2013年以降、増加傾向だが、乾麺類は横ばいから減少傾向乾麺のうどんも前年比で減少傾向にはあるが、そうめんだけは直近の12か月連続して前年を下回っている。
全国乾麺協同組合連合会は、「麺好きは元来、コシがあって食べごたえがある太麺を好む傾向にあります。そのため、以前からそうめんのような細麺よりも、うどんを好む傾向にあります」と説明している。
ただ、「流しそうめん」にみられるように、そうめんが夏の暑い時季によく食べられるのは確かで、「気温30度を超えてくると、消費も伸びます」と話す。
また、天然志向や本物志向の高まりで、高級感のある手延そうめんの人気が上昇。兵庫県の播州素麺「揖保乃糸」や奈良県の「三輪素麺」、富山県の「大門素麺」など、地方の特産品が贈答用に用いられるようになったのも要因とされる。
しかし、そうめんは苦戦している。もともと、カップ麺に比べて、乾麺は鍋にいっぱいの水を張り、沸騰させて麺を茹でるなど手間がかかるそうめんは夏に食べる機会が増えるので、火を使う時間を短くしたいこともあり、同じ乾麺類でもうどんやひやむぎと比べると麺が細い。うどんの場合は麺が太くて茹で時間の長くなるので夏は敬遠されがちだった。
しかし、最近はうどんでも「茹でる」手間が省ける、生めんやゆで麺が広がりつつあり、夏場のそうめんにとってかわられつつある。
さらに、そうめんは家庭では、サッと流水をくぐらせ、シンプルにお皿に盛って、麺つゆにつけて食べるスタイルが一般的だが、先述の連合会は、「よくも悪くも、これがそうめんの欠点ではあります。ずっと同じ食べ方、同じ味では食べ飽きてしまいますからね」と、指摘する。
7月2日は「うどんの日」、7日の七夕は「そうめんの日」
そうしたなか、2016年7月1日付の日経トレンディネットは、「夏の主役がそうめんじゃない!? めんつゆ激変の真相 売り場が『うどん一色』になった理由 」を特集した。最近は、「うどん」にマッチする「めんつゆ」の販売が増えているという。
たとえば、キッコーマンの「具麺ソース」シリーズや、ミツカンの「まぜつゆ 香るすだち」「まぜつゆ ごま豆乳」、オーマイ(日本製粉)初のうどんつゆシリーズの「うどんつゆかえてみませんか?濃厚魚介醤油」と「濃厚胡麻担々麺」や丸美屋の「埼玉の味 冷汁うどんの素」、ヤマキの「つけうどんつゆシリーズ」などがそれ。いずれも、うどんなどにからめるだけで手軽に食べられる。
キッコーマンによると、「発売当初(2012年)から、うどんだけでなく、そうめんでもおいしく食べることができます。『あまから肉ぶっかけ』などは冷奴で食べてもおいしいです」と、胸を張る。同社では、「削りたて そうめんつゆ」や「香り立つぶっかけつゆ」シリーズなども用意しているが、なかでも、パッケージにうどんをあしらった「具麺ソース」シリーズは好調で、2016年5月は前年同月と比べて約2倍を売り上げた。麺つゆ商品の中でも伸び率が高く、期待は大きい
じつは、これまでも夏にうどんを食べる習慣がなかったわけではない。「讃岐うどん」の香川県では、毎年7月2日を「うどんの日」に定めている。全国乾麺協同組合連合会によると、「讃岐地方の農家では『半夏生(はんげしょう)』(夏至から数えて11日目)のころ、田植えや麦の収穫を終えた、その労をねぎらうためにうどんを打って食べる風習がありました」と説明する。
ちなみに、毎年7月7日は「そうめんの日」。七夕の織姫にあやかり、「そうめん」を糸にみたてて「芸事(機織)が上手になるよう」と供えたのが起源とされる。