日本人7人が犠牲になったバングラデシュの首都・ダッカのテロ事件で、野党が政府の対応をめぐり批判を強めている。菅義偉官房長官が事件発生後に東京を離れ、新潟県で参院選に向けた街頭演説を行ったからだ。
この日は安倍晋三首相が北海道での遊説を取りやめて首相官邸で陣頭指揮にあたり、政府は「全く問題ない」と繰り返している。安倍首相が指揮を執っていても、菅官房長官がいなければだめなのか。野党側の主張は、菅氏の方をより「実力者」「大物」と位置づけているようにも見える。
テロ発生を会見で説明後、新潟に入って参院選応援演説
菅氏は2016年7月2日8時30分から開いた緊急記者会見で、「本件に日本人が含まれている可能性もある」などと説明。安倍首相の北海道遊説を中止したことも発表した。安倍首相は9時頃には官邸入りし、萩生田光一、世耕弘成両官房副長官や西村泰彦内閣危機管理監も官邸に詰めた。一方、菅氏は午後から新潟入りし、県内2か所で街頭演説した。7月2日には官邸では計5回記者会見が開かれ、そのうち2回を萩生田氏が担当した。
菅氏は、2日夜には官邸に戻った。7人死亡が確認されておらず「大変厳しい状況」と述べていた段階の記者会見では、自らの不在について
「内閣総理大臣が北海道での遊説をやめて、直接陣頭指揮を取っている」
として「全く問題ないと思う」と強調。
「私の不在の間は内閣法の規定に基づいて、萩生田副長官に代行をお願いしている」
「総理とご相談して。総理が残られるということの中で私が出かけた」
とも説明した。
国民の生命・安全よりも選挙を優先?
野党側は、政府のこういった説明に反発している。
民進党の岡田克也代表が7月3日朝に出したテロ事件に関する談話では、約800字ある本文のうち、400字以上を政府対応の批判にあてた。談話では、菅氏の行動を
「菅官房長官は、事件に日本人が巻き込まれている可能性が高いことを自ら記者会見で公表しながら、その後、地方に選挙応援に出掛けた。途中、治安部隊が飲食店に強行突入し、多数の死傷者が発生しても引き返すことなく、公務である国家安全保障会議も欠席した。予定された街頭演説を終え、官邸に戻ったのは、すべてが終わった後である」
などと非難。その上で、
「現実に事態が発生し、日本人が危機的な状況にあることを承知した上での選挙応援」
「国民の生命・安全よりも選挙を優先したと言われても仕方がない行動」
と危機管理上の問題を指摘した。ただし、声明の中では、安倍首相が官邸で陣頭指揮したことには触れていない。共産党の志位和夫委員長は、記者団に対して
「危機管理の責任者が官邸を離れたのは非常に重大な問題」
などと話し、安倍首相が対応するだけでは不十分だとの見方を示した。
一方、両野党党首とも、この日は参院選での応援演説をしているが、そのことには言及がない。
こうした平行線をたどる批判の応酬について、岡田氏の発言を伝えるニュースのコメント欄には
「オリンピックもあるし与野党問わずテロ対策にしっかり取り組んだら良いと思います」
「論戦はどうでも良いので、しっかり対策してほしいです」
といった声が相次いでおり、野党側の批判は必ずしも国民の共感を得ていないようだ。