2016年8月に開催されるリオデジャネイロ五輪だが、現地のトラブルが絶えない。そのせいか、世界の大物選手の出場が危ぶまれている。
「リオには行かない」
こう断言したのは、プロゴルフ界のスーパースターにのし上がったジェーソン・デー。世界ランク1位の男である。
理由の一つにジカ熱
この発言の波紋は大きい。ゴルフが五輪の正式種目に復活するのは112年ぶりのこと。世界のゴルフをリードするPGAのNo1プレーヤーが辞退を表明したのだからIOCの驚きは半端ではない。
さらに追い打ちをかけるように、世界ランク4位の実力者、ロリー・マキロイも同じような発言をしている。
両選手の理由の一つにジカ熱があるらしい。これは死者がすでに出ており、猛威を振るっていることで知られる。
「ゴルフが自分の体、家族の安全より優先することはない」
というわけだ。
IOCは、五輪競技は世界のトップ選手で競われる、としている。それからすると、ゴルフではその大義名分がなくなってしまう。
リオは今、トラブルが多い。マフィアが競技場に近い病院を襲うわ、警察官はストライキするわ、真っ昼間の街中でひったくりが横行するわで、危険極まりない。はっきりいって「怖い街」だ。
最高レベルの選手の大会という点では、野球も同じ状況にある。2020年東京大会で追加種目になるのは決定的といわれているけれども、肝心の米国の大リーグは出場する気がまるでない。最高峰の大リーグか参加しなければゴルフと同様に意義が薄れてしまう。日本のプロ野球が出場要請はしているものの、返事はゼロ回答という。
ワイロ問題の影響
もともと五輪は金食い虫の国際大会だった。開催都市は多額の税金を投入したため、その後の赤字に苦しんだ歴史がある。
それを「儲かる大会」に変えたのは1984年のロサンゼルス大会だった。ハワイで観光業を成功させたピーター・ユベロスを引っ張りだし、巧みなスポンサー集めを行い、大きな黒字を出した。
IOCはちゃっかりその方式を取り入れ、さらに収入を上げるために、プロ選手の出場を認めた。それまでのアマ選手のプレーに比べ、金を取るプレーはまるで実力、迫力が違う。今では彼らを利用し、ワイロまみれになっている委員もいる有様だ。
五輪は「国を背負って戦う」ことを是とする。ところがプロ選手は考え方が違う。ゴルフのPGA、大リーグ、バスケットボールのNBAなどは、五輪でケガをすれば、その後の収入に影響が出る。
「ワイロ問題で揺れている現在、そんな人間のために心底出場したいと思う有名プロ選手はいないでしょう」
メディアの中からの声である。
といって五輪ではプロ選手に見合うギャラなどは出ないし、今後もそうなることはないだろう。リオに行くことを拒む世界のプレーヤーは増える可能性がある。五輪の曲がり角、といえるかも知れない。
そんな情勢のなかで7月3日、日本は皇太子ご夫妻を迎え選手団の結団式と壮行会(東京・代々木体育館)が行われた。選手は「メダルを取りたい」と抱負を語っている。リオ視察を怪しげな予算を指摘されて取りやめた東京都議会のとんちんかんぶりはあきれるばかりだが、緊張する世界との落差に驚くばかりである。
(敬称略 スポーツジャーナリスト・菅谷 齊)