大阪府は、府内で自転車に乗る人全員に「自転車保険」の加入を義務付ける。2016年4月に施行した「大阪府自転車の安全で適正な利用の促進に関する条例」に基づき、7月1日から運用を開始する。
大阪府の自転車事故の件数は、2015年に1万2222件となり、全国で最悪。条例で、自転車の安全運転を積極的に推奨することで名誉挽回を図る。
電動アシスト自転車の普及でケガが重症化
自転車事故の増加を背景に、「危険運転」を繰り返す人に講習を義務付ける改正道路交通法が施行されて1年。しかし、自転車の危険運転が原因の交通事故は、全国的に後を絶たない。
警察庁の調べによると、2015年の事故件数は9万8700件。このうち、人と自転車との接触事故は2506件だった。いずれも、ここ数年は減少傾向にあるものの、その一方でスピードが出やすく、車両が重たい電動アシスト自転車の普及でケガが重症化するケースは少なくないとされる。
そうしたなか、大阪府では自転車事故による死者数が、15年に50人に達した。前年に比べて16人と大きく増えた。死者の約5割が高齢者で、その死因の約8割が頭部損傷によるものという。
加えて、自転車に乗っていた加害者が、事故の相手が亡くなったり、重篤な後遺障害が生じたりして、高額な賠償を請求されるケースが発生している。たとえば、2013年に神戸地裁が、男子小学生が乗った自転車と歩行中の62歳(当時)の女性が正面衝突した事故をめぐる裁判で、小学生の母親に9521万円の賠償を命じる判決が下りた。
2015年10月1日から、全国の自治体で初めて、自転車保険への加入を義務付けた兵庫県は、この事故がきっかけだった。
兵庫県に次ぐ2番目
大阪府の自転車保険の加入義務化は、兵庫県に次ぐ2番目。2016年7月1日から、大阪府内で自転車に乗る場合は、府民かどうかを問わず、自転車保険への加入を義務づける(条例第12条、第13条の規定の施行)。子どもの場合は保護者が加入させる義務があるほか、観光などに利用されるレンタサイクルについては、事業者が自転車に乗る人の保険加入を確認したり、自転車に保険をかけたりするよう、努力義務を設けた。
自転車事故で深刻な事態を招くケースが増え、事故の加害者に多額の賠償金の支払いが命じられたり、被害者も加害者の経済状況によって十分な賠償を受けることができなかったりする可能性もある。自転車保険の加入義務化で、加害者が損害賠償責任を負った場合の経済的負担を軽減する狙いもある。
ただ、自転車に乗っている人が保険に加入していないことがわかっても、罰則規定はない。
大阪府の自転車条例は、「自転車保険の加入義務化」と「交通安全教育の充実」「自転車の安全利用」「交通ルール・マナーの向上」が4本柱。府都市整備部は、「自転車事故を減らすために、マナーを守って、安全に乗ってもらうことが条例の趣旨です。そのことをしっかりと意識していただき、安全運転に取り組んでいただきたい」と話す。
「子供のために」
一般に、自転車保険には運転する人自身のケガを補償する傷害保険と、他人にケガを負わせたり、モノを壊したりした時の損害賠償に備える個人賠償責任保険をあわせた商品、また被害者との交渉や書面のやり取りを代行するサービスなどがあり、取り扱っている損害保険会社によって商品性や契約の仕方(自動車保険や火災保険傷害保険の特約で付帯する保険契約や、家族が契約している保険)が異なる。
自転車保険の加入状況について、三井住友火災海上保険は「自転車保険への加入は増加傾向にあります。主に30~40代。『子供のために』と言って加入される人が多いですね」と話す。また、最近はロードバイクなどに乗ってサイクリングで楽しむ人が増えており、そういった人の加入も少なくないという。
大阪府では、三井住友海上のほか、東京海上日動火災保険や損害保険ジャパン日本興亜、au損害保険、AIU損害保険などと協定を結び、「おおさか自転車ほけん」を取り扱う。ただ、自転車保険への加入には、自転車の点検整備を受けたときに付いてくるTSマーク(自転車の車体)に付帯する保険や共済などへの加入でも「問題はない」としている。
一方、兵庫県や大阪府が実施に踏み切った自転車保険の加入義務化は、他の自治体に広がりそう。大阪府は、「(自転車保険の加入義務化について)視察を含め、多くの問い合わせをいただいています」と話し、各自治体の関心の高さをうかがわせる。
現在、保険加入の義務付ける条例については滋賀県が10月1日からの施行が決まっている。また、東京都や埼玉県、名古屋市などが、保険加入を「努力義務」としているほか、横浜市のように団体保険を用意して加入を促しているケースもある。