日本選手権男子100メートルを制したのはケンブリッジ飛鳥だった。敗れた桐生祥秀は泣いた。リオ五輪を前にしての逆転ドラマ。「主役交代」か。
日本陸連のほおが緩みっぱなしである。
「10秒を切る可能性のある選手が3人もそろうのは日本陸上界で初めてのことだ」
桐生の涙の意味
陸上の男子100メートルといえば、もっとも速い選手を指す。現在、国内ナンバーワンを競っているのが桐生、ケンブリッジ、山縣亮太。彼らがリオ五輪代表を決める日本選手権で対決(2016年6月25日、名古屋)した。
(1)ケンブリッジ 10秒16
(2)山縣 10秒17
(3)桐生 10秒31
ケンブリッジは山縣をゴール寸前でとらえ、まさに紙一重の差で勝った。この結果、すでに内定している桐生とともに代表切符を手にした。
メディアも大きく取り上げ、リオ五輪の目玉になることは確実。陸連幹部が大喜びしている図なのだが、それとは裏腹に選手たちは悲喜こもごもで、戦いの厳しさが改めてクローズアップされている。
「今回は絶対に勝つと決めていた。その通りになった。うれしい」
ケンブリッジのこの弾んだ声と対照的だったのが桐生だった。インタビューで涙を流したのである。
「あまりにも情けない...」
桐生はレース内容を覚えていないらしかった。
「...分からない」
それが問いに対する答えだった。まさか自分の前で1位を競ったケンブリッジと山縣の姿を見るとは思いもしなかったのだろう。トップを競る場には必ず自分がいるはずだ、と。今までにない光景を見たことで混乱していたのかもしれない。