アマゾンジャパンが電子書籍の定額読み放題サービス「Kindle Unlimited(キンドル・アンリミテッド)」を、2016年8月初めにも開始する方向で複数の出版社と交渉していると、6月27日付の文化通信が報じた。
電子書籍の「読み放題サービス」はコミックスなどを中心にすでにはじまっているが、その一方で出版社や作家などの収入がますます減るのではないかと、懸念されている。
「Kindle使い、月額980円で」と報道
アマゾンの電子書籍の定額読み放題サービス「Kindle Unlimited」は、利用者が月額料金を支払うと、このサービスに参加する出版社が提供しているKindle版の電子書籍や雑誌、コミックスなどが読み放題になる。
米国ではすでに、2014年に読み放題サービスの提供を開始しており、60万冊を超える電子書籍が月額9ドル99セント(約1000円)という手ごろな価格で読める。Kindleはもちろん、iOSやAndroidなどのKindleアプリが動く端末であれば、どれでも利用できるが、 アマゾンはこのサービスを日本にも導入しようということのようだ。
メディア産業の総合専門紙「文化通信」は2016年6月27日付で、出版社の関係者の証言として、アマゾンが出版社に対して、「8月初めのサービス開始に向けて、6月中に契約を締結するよう求めている」と報じた。実現すれば、月額980円で本や雑誌などが読み放題になる。
大手を含め、出版社がどの程度参加するかは現時点では不明だが、アマゾンは出版社に対してロングセラーや、現行のKindle版と同じ内容での提供を求めているとされ、「収益の半額を電子書籍の利用量に応じて出版社に支払う」などとの条件を提示しているようだ。コンテンツも出版社が選んで提供するという。
アマゾンは2016年6月27日、J‐CASTニュースの取材に「現時点で、当社からコメントすることはありません。今後、必要があればアナウンスさせていただきます」と話した。
アマゾンの読み放題サービス提供の情報に、インターネットでは、
「映画に音楽、ついに本も定額で読み放題か!」
「まぢかっ!? 対象となる本がどれだけあるかだな」
「マンガだけじゃなく、雑誌とか小説とかも読み放題になればいいんだけど・・・」
「1か月経過した本とかが読み放題なら、契約するわ」
「米国にあって、なんで日本にないんだって思ってた」
と、歓迎ムードが漂う。
電子書籍を読みなれていて、たくさんの本を読みたいという人には「朗報」として受けとめられているようだ。
出版物の販売額は11年連続マイナス
全国出版協会・出版科学研究所によると、2015年の出版物(書籍・雑誌合計)の推定販売金額は前年比5.3%減の1兆5220億円。マイナスは11年連続で、減少幅は14年の4.5%減を上回り過去最大。ピークだった1996年の2兆6564億円に比べると、4割超も減った。
書籍が、14年と比べて1.7%減の7419億円と微減にとどまったのに対して、雑誌は8.4%減の7801億円と大きく落ち込んだ。14年は書籍が前年比4.0%減、雑誌が5.0%減だったので、書籍はやや持ち直したものの、雑誌はさらに悪化したというわけだ。
その一方、電子書籍や電子雑誌は前年比31.3%増えるなど拡大基調が続いているが、15年の電子出版の市場規模は1502億円で、まだ出版全体の1割ほどだ。
このため、今後、電子書籍市場がさらに伸びれば、出版不況の深刻化を加速させるとの見方は拭えない。インターネットにも、
「もう、これ以上コンテンツの安売りはやめてほしい。ただでさえ最近の風潮は『コンテンツはタダが基本』だし 再販制度で長らく守られてきたツケをどこかで払う必要はあるけど、こんな急激に安売り合戦をはじめたら出版社はどんどん潰れるし、作家はとても食っていけない」
「出版社や著作者の取り分はどうなるんだろ。こういったサービスによって新刊が出なくなるようだと意味がないんだが・・・」
といった、出版社や作家への影響を懸念する声が寄せられている。
音楽業界では、スウェーデンのSpotifyや米アップルのiTunes Radioなど、定額料金で音楽が聴き放題になるストリーミング・サービスが急拡大。アマゾンも、すでにプライム会員向けに音楽配信サービス「Prime Music」を提供している。こうしたサービスの広がりで、音楽業界ではアーティストやレーベルなどの収益が大幅に減ったとの指摘がある。
電子書籍の定額読み放題サービスの開始で、音楽業界と同じように、出版社や作家などの収益機会が減るのではないかというのだ。
出版科学研究所は、「(アマゾンが提供するサービスの)まだ詳細がわからないので、どの程度の影響があるのか、正直わかりません」と話す。
加えて、サービスの提供から2年が経つ米国と日本とでは「市場が違います」とも。「電子書籍にはマンガが多いのですが、すでに出版社が独自で提供している作品が多く、読者もそれを利用しています」とし、使い慣れているサービスからの乗り換えが進むかどうかは、読めないという。
数多くの有力作品やヒット作を保有する大手出版社が参加するかどうかによっても、その成否は変わってくると指摘する。