男性だけでなく女性の働きすぎも増えているが、最新の研究では、仕事時間が長いほど病気になるリスクに男女差があることがわかった。
長時間働くと、女性は様々な病気の発症リスクが高くなるが、男性では、ほどほどに働き過ぎた方が健康によいという結果さえ出ている。どうして女性ばかり損をするのだろうか。
ほどほど長時間労働の「社畜男」はむしろ健康
米の衛生環境医学誌「Journal of Occupational and Environmental Medicine」の2016年6月号に、女性にとってショックな論文が掲載された。米オハイオ州立大学のチームが、「1週間あたりの仕事時間が長い女性ほど、心臓病やがんなど8つの代表的な慢性疾患を発症するリスクが高くなる」という研究結果を発表した。8つの慢性疾患とは、「心臓病」「がん」「糖尿病」「関節炎(リウマチを含む)」「高血圧」「肺疾患(気管支炎と肺気腫を含む)」「喘息」「うつ病」だ。
研究チームは、32年分の記録が残っている約7500人の男女の健康データを使って、1週間あたりの仕事時間と慢性疾患の発症率の関係を調べた。
すると、次のことがわかった。
(1)女性の場合は、30年以上にわたり1週間あたりの仕事時間が60時間以上あると、40時間以下に比べ、「心臓病」「がん」「糖尿病」「関節炎」のリスクが3倍に増加する。
(2)女性の場合は、慢性疾患全体のリスクが、1週間あたりの仕事時間が40時間を超えるあたりから増加し始め、50時間を超えたところで急上昇する。
(3)一方、男性では、仕事時間が長いほど目だってリスクが増えたのは「関節炎」だけであった。
(4)それどころか、男性では、1週間あたりの仕事時間が41~50時間と、ほどほどに長い場合には、40時間以下の場合より「心臓疾患」「肺疾患」「うつ病」の3つの疾患のリスクが低くなった。
帰宅後も家事でゆっくり休めず
この意外な結果について、研究チームでは論評していない。この論文を読んだ日本の専門家はウェブサイトの中で、次のように推測している。
「女性だけが仕事時間が長いと慢性疾患のリスクが高まるのは、外で長時間働いた上、帰宅後もゆっくり休めず、家事をしなければならないからだ。また、男女の間で、仕事に対する満足感に違いがある可能性も考えられる」
もう1つ、女性にとってトホホな研究がある。2012年8月、カナダ・トロントの「仕事と医療研究所」のチームが、「仕事のストレスと糖尿病の発症リスク」に関する研究を医学誌「Occupational Medicine」に発表した。
糖尿病の既往歴のない男女7443人を9年間にわたって追跡すると、男性の10.3%、女性の6.9%が糖尿病を発症した。対象者には、仕事に関する満足度やストレスをアンケート調査していた。そこで、「仕事がうまくいっている人」と「うまくいっていない人」に分けて糖尿病の発症率を比較すると、女性では「うまくいっていない人」の発症リスクが「うまくいっている人」の2倍以上に増えた。しかし、男性では両者の間に差がなかった。女性では、仕事のストレスが糖尿病の危険因子となるのに、男性では関係なかったのだ。
「女子会で美味しい物を食べよう!」は超アブナイ
なぜ、女性にだけ仕事のストレスが健康被害となって降りかかるのか。研究チームのピーター・スミス博士はこう説明している。
「女性と男性とでは、ストレスに対する身体的・心理的な反応が異なります。ストレスを感じると、副腎皮質からコレチゾールというストレスに対抗するホルモンが出ますが、女性の場合は男性に比べると、コレチゾールが多量に、しかも長い間分泌されるのが特徴です。すると、ホルモン全体のバランスを崩してしまうのです」
女性がストレスを感じると体調を崩しやすいのは、ホルモンバランスが壊れやすいからだ。コレチゾールは、適量だと体に様々ないい働きをするが、過剰に分泌されると、別の恐ろしい反動がくる。スミス博士はこう続ける。
「コレチゾールは、食欲を抑える働きをする脳内ホルモンのセロトニンを低下させる作用があります。だから、コレチゾールが過剰に分泌されると、食欲が高まり、いくら食べても満腹感が感じづらくなってしまいます」
よく女性は、ストレス解消のために甘い物や脂肪分の多い物をパクパクと食べる傾向があるが、それはコレチゾールが食欲を促進しているからだ。これが俗に言う「ストレス太り」であり、女性だけがストレスで糖尿病リスクが高まる原因なのである。
くれぐれも、職場で面白くないことがあっても、「女子会で美味しい物を食べに行こう!」ではなく、「運動」や「遊び」で発散させよう。