「皆さん助けてください」「賃金も2年間払われていません」――。東京都内に5店舗を構えるインド料理店「shanti(シャンティ)」全店に張り出された、外国人従業員による「SOSポスター」をめぐるトラブルが物議を広げている。
経営者は行方をくらまし、従業員が自主営業を続けているという異常事態は、ネット上で「ひどすぎる」と大きな話題を呼んでいる。J-CASTニュースは、ポスター張り出し直後から従業員の代表者らに取材を進めてきた。
「今年に入ってから、給与は1円も払われていない」
「私達は6月20日で解雇・お店閉鎖を通告されています。賃金も2年間払われていません。皆さん助けてください」
シャンティ全店舗に2016年6月13日から掲出されたポスターには、こんな文章が「従業員一同」との署名付きで書かれていた。ポスター下部には、従業員の代表者とみられる外国人2人の名前と連絡先の記載もある。
代表者の1人であるバングラデシュ人の男性は6月15日のJ-CASTニュースの取材に、
「ポスターには2年と書きましたが、実は7~8年前からずっと全従業員が給料の一部しか貰えていない。今年に入ってから、給与は1円も払われていない」
と窮状を訴える。この代表者は店の従業員ではないが、日本語が得意なため、通訳としてサポートを行っているという。
ポスターに「2年前」と記載したのは、労働基準法では賃金請求権が2年で消滅するためだという。そこで5月25日に従業員全員の過去2年間の未払い賃金「6296万円」を運営会社の日本人経営者に請求し、6月13日には池袋労働基準監督署に申し立てた。
現在、シャンティで働く外国人従業員は全部で15人で、大半がインド人だ。契約上は給料が20万円とされているが、食費や住居代名目で10万円以上が差し引かれる。残りの給料も大部分が支払われておらず、なかには、1度に手にする給与が約4万円しかなかった従業員もいるという。
日本語が分かる従業員は「ほとんどいない」
一方で、従業員のうち13人が、会社が所有するアパートの1室に同居していたが、16年2月に火事が起きて、住むことができなくなった。それ以降、住む場所のない従業員は、店舗の中で寝泊まりしながら、自分たちで営業も続けている。
これに対し、経営者からは6月8日に「ただちに店舗の営業を停止しなさい」「20日まで店舗から退去しなさい」などと通告書が届いた、という。先の従業員代表は
「店舗を追い出されたら、彼らは皆ホームレスになるしかありません。その前に、従業員が置かれている窮状を伝えたかった。だからポスターを作ったのです」
と語る。また、この通告書には、「(従業員は)売り上げを直ちに会社に引き渡しなさい」とも記されてもいるという。しかし、給与の未払い分を請求してから経営者とは音信不通になり、「売り上げを払いたくても払えない状況になっている」と代表者は説明する。売上金は自分たちで管理し、そのお金で食材などの材料を仕入れているという。
長い間こうした厳しい労働環境に置かれていたにも関わらず、従業員が行動を起こさなかった理由については、
「そもそも、日本語が分かる従業員がほとんどいません。社長が何を言っているかさえ、一部の従業員しか分からない状況でした。さらに、就労ビザの問題もあって、彼らは会社をクビになるわけにはいきませんでした」
と話す。
「しばらく店は続けますが、いつまでできるかは分かりません」
シャンティの「SOS」を訴えたポスターがネット上で注目を集めたことをきっかけに、6月14日に開設された「シャンティ従業員一同」というツイッターアカウントには、「弁護士に相談したらどうか」「頑張って下さい!」などと具体的なアドバイスや応援メッセージが続々と集まっている。
J-CASTニュース記者も6月23日、シャンティ駒込本店を訪れた。すると、経営者は不在のままで、外国人従業員だけで「退去」期限の20日が過ぎたまま、営業を続けていた。
従業員の1人に改めて話を聞くと、自主的に営業を続けているのは、労基署の担当者に相談した上でのこと、と説明した。
さらにネット上などで応援メッセージが出ていることについても、
「色々な方からメッセージを貰っていて、本当にありがたいと思っています。全従業員を代表してお礼を伝えたい。あと、モノやお金を送ってくれようとする人もいますが、断っています。いまは、応援の言葉やアドバイスだけで十分です」
と感謝の言葉を述べていた。
ただ、従業員は今も経営者とは連絡が取れない状態が続いている。J-CASTニュースが経営者の携帯電話に接触を試みているが、23日18時現在、携帯電話の電源が入っていないなどの音声アナウンスが流れるだけだった。
同店のホームページは6月17日までに1度更新され、「シャンティは全店閉店いたしました。長い間のご愛顧ありがとうございました」とのメッセージが表示されていたが、23日現在、サイトごと削除されている。
従業員たちは、「ホームページはなくなりましたが、しばらく店は続けます。ですが、いつまで営業できるかは分かりません」と沈痛な面持ちで話していた。