2016年夏の参院選(6月22日公示、7月10日投開票)に合わせて、J-CASTニュースが海外の例や専門家らの提案をもとにユニークな「選挙制度」を紹介する連載企画。第2回は「ドメイン投票」だ。
この方式は、投票年齢未満の子供にも1票を与える仕組みで、高齢者の声が優先されがちな世代間格差を解決する糸口として注目を集めている。
若年世代の利害を親が代わって反映させる
公案したのは米国の人口統計学者、ポール・ドメイン氏だ。1986年に書いた論文の中で提唱した。
子供に1票――といっても実際に子供が投票先を決めるわけではない。保護者である親が代理で投票をすることが想定されている。具体的には、子供が2人いれば父親と母親が1票ずつ。子供が1人ならば、母親と父親が0.5票ずつ余分に受け持って投票することが考えられている。
「民主政治では、投票者の主体が高齢者になると、どうしても若年世代の行く末に無関心になりがちで、国家がどう長期的に生存するかという事に対する関心が低くなります。そのため、投票権を与えられていない未成年の意見を反映させるような選挙制度に変更すべきだと思っています」
ドメイン氏は2011年の来日時、このように意義を説明している(総合研究開発機構の対談資料より)。
少子高齢化が進む日本では、票につながる多数派の高齢者の政治的な声が増すばかりだ。政治家も高齢者層にウケのいい政策を優先的に打ち出し、若年層の意見は反映されにくくなる。いわゆる「シルバー民主主義」と呼ばれる状態である。
日本では年金問題や社会保障制度の抜本的な改革が先送りされ、勤労世代への負担が増加する世代間格差が拡大している。
だが、幼い子供とその親の政治的な声が大きくなれば、長期的な視野で考えられた政策が選ばれる可能性が高くなる。さらにドメイン氏は、この方式が子供を産むインセンティブになり、有力な少子高齢化対策の1つになる可能性があるとも主張している。
ドイツやハンガリーでは国レベルで議論
日本と同じく少子高齢化が進むドイツでは、2000年代に入ってから2度にわたってドメイン投票の導入案が連邦議会で審議された。しかし、親が子の票を代理で持つ事で「1人1票の民主主義の原則に反する」「秘密投票に反する」といった反論があり、2回とも否決された。
ハンガリーでも、2012年に施行された新憲法の草案段階ではドメイン投票をもとにした構想があった。しかしハンガリーでも反論が出て、最終的には盛り込まれなかった。
現在、この方式を採用している国は見当たらないが、少なくともドイツとハンガリーでは、国レベルで真面目に議論されていることは注目される。日本でも一橋大学経済研究所の青木玲子教授らが実現に向けて研究を進めている。
青木氏が2011年に実施したドメイン投票に関するインターネット調査では、未成年の子供がいる有権者の68.2%、子供がいない有権者では44.5%が同方式に賛成した。
青木氏は調査結果をまとめた報告書の中で次のように述べている。
「歴史を振り返ると、普通選挙や女性参政権は、民主的に選択された選挙権の拡大である。どちらも当初はとんでもない改革であると思われていたにもかかわらず実現されたのは、当時の有権者が、自分たちの政治力が弱くなっても、選挙権の拡大によって実現できる政策が望ましいと判断したからである。現在の有権者の間にも、将来世代への選挙権拡大は、自分たちにとっても、望ましいことであるという考えが浸透すれば、それは実現可能である」
今回の参院選から、投票者の年齢は20歳以上から18歳以上に引き上げられ、約240万人の有権者が増える。こうした動きの底流にも、世代間で異なる意見をなるべく多く政治に反映させようという考えがある。