イオンリテールが「新たな夏の食スタイル」として提案した「NATSU O SECHI」(夏おせち)が、議論を巻き起こしている。
年末年始と同様、帰省やホームパーティーなど家族が集まる機会の多いこの季節。イオンが想定したのは、見た目にも華やかな料理を大人数で囲む一家団らんのシーンだ。しかし、年末年始と違って長期間休業する飲食店は少なく、おせちの常温保存も難しい。ネットの反応は、季節感を無視している、外食でいい、と手厳しいが、勝算はあるのか。
お盆期間に予約販売、最高は1万5800円で
「素材にこだわりました。お子さまはもちろん、大人がお酒を飲みながらも楽しめるような料理にしています」――イオンリテールの担当者が自信を持ってこう勧める「NATSU O SECHI」は、2016年6月24日から本州・四国の「イオン」「イオンスタイル」381店舗で予約が始まる。
全6品の値段は、5800円から15800円(いずれも税抜)とさまざま。引き渡し日は8月13日、14日とお盆期間にあわせた。特設サイトには豪華な見本写真が並んでいる。
ただ、写真を見る限り普通の「おせち料理」というよりは「洋風おせち」に近い印象だ。担当者いわく、「冬のおせちと差別化するため、和風の煮しめを思い切って外し、洋風に振り切った」。料理は「薫り豊かな帆立貝柱スモーク」「十勝ハーブ牛のローストビーフ」「冷製バーニャカウダの夏風味寄せ」など、どれもワインやシャンパン片手につまめそうだ。
そもそも、なぜお盆に「おせち」なのか。
「お正月もお盆も遠方に暮らす人が帰省し、大人数で食卓を囲みます。せっかくみんなが集まる機会なので、ハレの日にふさわしく、家庭で作るのは少し難しい料理を『おせち』として提案してみようということになりました」
毎年お盆期間にオードブルの販売数が増えることを把握していた同社。大阪の仕出し料理店が12年ごろから売り始めた「夏おせち」がメディアで頻繁に取り上げられたこともあり、「これから流行る」と踏んだという。
イオン「オードブル需要はあるので、勝算はある」
しかし、同社の自信とは裏腹にツイッターで
「季節感を無視しすぎ」
「安易な発想」
「流行らない」
と厳しい声が投げかけられている。
そこで、挙げられた主な批判を同社担当者にぶつけた。まず、おせち料理を年末年始に食べる習慣は深い伝統に根差しており、時期だけ変えればいいものではない、という指摘。これには
「おせち料理には一品一品由来があるというのは重々承知していますが、私たちは『恵方巻き』のように『新しい食のスタイル』を育てていきたいのです」
と説明する。「ゲン担ぎ」の食文化からバラエティー豊かな太巻きを楽しむ文化へ変貌した「恵方巻き」のように「新しい食文化」にしたい、と担当者は意気込んだ。
次に、お正月と違って、開いている店で外食すればいい、との声には
「オードブル需要はあり、大人数で食卓を囲むという機会は多くなるはずです。そういう意味で勝算はあります。いきなり冬のおせちほどの市場にならなくてもいいんです」
と強気に返してきた。
最後に、室温や湿度から食中毒を心配する声に触れると、
「(料理は)基本的にすべて冷蔵保存となっています。8月13日、14日にお渡しして、賞味期限は15日までです。冬のおせちと比べて食べる期間を短く設定しています」
と対応策を答えた。
まさに、あらゆる批判に「万全の準備」で送り込まれる新兵器「夏おせち」。新たなブームを作りだせるだろうか。