2016年夏の参院選が6月22日、公示された。7月10日の投開票に向け、各党の選挙戦が始まった。選挙戦は憲法改正勢力を与党中心に確保するのかが主な争点とはいえるが、消費税増税が延期されたこともあって、与野党の違いはややぼやけた。今回は18歳以上に選挙権が国政選挙で初めて適用され、ネットを含めて若者へのPR合戦が熱を帯びている。
だが、そもそも「1人1票」「地域ごとの選挙区」といった現行の投票制度は「絶対」「唯一」なのか。J-CASTニュースでは今回、様々な提案や海外の事例をもとにユニークな「選挙制度」のアイデアをピックアップし、4回にわたって紹介する。一見、荒唐無稽のように見えても、こうしたアイデアが生み出された考え方には、今回の選挙で投票をする際に大いに参考になることがある。――第1回は「マイナス投票」だ。
「消去法」で投票してきた有権者が変わる可能性
現行制度では、有権者は、当選してほしい候補者や議席を獲得してほしい政党に投票するようになっている。だが、選挙によっては、投票したい人物や政党がない有権者もいるだろう。
その場合、投票用紙に何も書かない「白票」を投じれば、総投票数にはカウントされるが、間違いやイタズラと同じ「無効票」として扱われる。「支持したい候補者、党がない」という意思表明は、ある程度できるが、個々の選挙への影響は限られる。
一方、支持する候補者や政党はないが、当選してほしくない候補者や議席を獲得してほしくない政党がある場合もある。しかし、その意思を伝えることは現行制度ではできない。
もし「マイナス投票」が導入されたら――。これは、過去に前東洋大学法学部教授の加藤秀治郎氏やコラムニストの小田嶋隆さん、マツコ・デラックスさん...と幅広い人々が提案しているものだ。
具体的には、こんな形が想定できる。有権者は投票所へ出向き、当選してほしい候補者(党)、もしくは落選してほしい候補者(党)の名前を書くことができる。集計時には、各候補や政党が獲得した通常の票からマイナス票を差し引いて合計獲得票数を出し、当選者を確定する。
こうなれば、有権者は各候補者の過去の実績や言動を厳しくチェックすることになるだろう。政治に無関心な層は動かないかもしれないが、これまで「消去法」でなんとなく投票していた人の投票行動はガラッと変わるかもしれない。「この人だけには任せられない」という思いから、投票所に足を運ぶようになる人も出てくるだろう。投票率アップも見込めそうだ。
しかし、マイナス投票制度は、候補者がより良い政策を打ち出すのではなく、足の引っ張り合いをし始めてしまう、という懸念もある。2013年の参院選当時、千葉市の熊谷俊人市長もツイッターで
「基本、選挙ってマイナス感情を元に投票した場合、大抵良い結果にならないんですよね、経験則的に。『お灸をすえる!』的な発想で投票するよりは、よりベターなものを探して投票するのが一番です。マイナス票は制度を悪用されるリスクもあります」
と否定的な見解を示していた。
マイナス投票の考え方に通じる「落選運動」
現在では、導入事例は海外でも見当たらない。ただ、米国や韓国など、いくつかの国では「落選運動」が盛んに行われており、マイナス投票の考え方にも通じるものと言える。
2000年の韓国総選挙では、約460もの市民団体が団結。不正腐敗に関係した政治家など102人をリストアップして公表し、政党に公認しないよう要請した。
さらに市民団体は、選挙において86人の落選候補を公表。インターネットを駆使し、有権者に投票しないように呼びかけた。結果、59人落選という目に見えた成果をあげた。
日本は公職選挙法で選挙運動について厳しい制限があるが、落選運動については、ネット選挙が解禁された2013年の改正公選法ガイドラインでも「何ら当選目的がなく、単に特定の候補者の落選のみを図る行為である場合には、選挙運動には当たらないと解されている」とされている。「落選させることのみが目的」であれば、選挙運動に規制はないわけだ。
2015年には安全保障関連法の成立に反対していた学生団体「SEALDs(シールズ)」が「賛成した議員を落選させよう」と呼びかけ、注目を集めた。
また、今回の参院選では、野党4党が32ある1人区すべてで支持する候補者を統一し、票を分散させずに対決することを決めている。安倍晋三首相はこれについて、6月19日放送の「NHK討論」で「ただ政権を倒すためだけに候補者を一本化している」などと批判したが、「マイナス投票」や「落選運動」に通じる動きを敏感に感じているともいえそうだ。