フランスで開催された「第84回 ル・マン24時間耐久レース」に出場していたTOYOTA GAZOO Racingが、残りあと3分のところで悲願の初優勝を逃した。
ハイブリッド技術で世界をリードするトヨタがレース専用に開発したレーシングハイブリッドエンジンを搭載した「TS050 HYBRID」5号車(ドライバー=中嶋一貴、アンソニー・デビッドソン、セバスチャン・ブエミ)がゴール直前にストップ。ポルシェ「919ハイブリッド」2号車が優勝をさらった。ポルシェは2連覇を達成。トヨタは6号車が2位に入り、3位はアウディ「R18」8号車だった。
無線から「No Power! No Power!」の声・・・
2016年のTOYOTA GAZOO Racingは、「敗者のままでいいのか」をキーワードに、例年以上の強い意気込みでレースに臨んできた。ル・マンでは、惨敗に終わった15年からマシンを大幅につくり直し、抜群の信頼性と燃費でポルシェと首位争いを演じてみせた。
終盤戦にトヨタがリードを奪い、栄光のチェッカーフラッグまで残り2週。順調に周回を重ねた23時間55分が経過したときのこと。祝勝ムードが漂いはじめたトヨタのピットが一変する。
「No Power! No Power!」――。ドライバー、中嶋一貴選手の声が無線から響くと、そのまま減速。ファイナルラップへと向かう最後のストレートでマシンが停まった。その横を駆け抜けるポルシェ「919ハイブリッド」2号車。なんとか走行を再開したトヨタ5号車だったが、規定の6分以内に最終周を走り切ることができず、失格となった。
まさかのトラブル。「レースは最後まで何が起こるかわからない」といわれるが、それにしても、悔しい幕切れだった。
トヨタは2016年6月20日付のホームページで、「TS050 HYBRID #5号車は、残り2周で無念のトラブル #6号車が2位表彰台獲得」と、ル・マンのレースレポートを報告するとともに、ドライバーらのコメントを公開した。
アンソニー・デビッドソン選手は、「映画の脚本だとしても、こうは書けない」と落胆。セバスチャン・ブエミ選手も「今日の状況を的確に表す言葉は見つけられません。我々はレースをコントロールできていましたし、勝利は目前でした」とうなだれる。
中嶋一貴選手は「まず、チームの皆に有り難うと言いたいと思います。『TS050 HYBRID』は運転しやすく、すべてはうまく行っていました」と、肩を落とした。
豊田章男社長は、「ご声援を送っていただいた皆様に心より感謝申しあげます。本当にありがとうございました」と述べたうえで、「ついに悲願達成か...と、誰もがその一瞬を見守るなか、目の前に広がったのは、信じがたい光景でした。チームの皆の心境を思うと... そして、応援いただいたすべての方々へ... 今、なんと申しあげたらよいか、正直言葉が見つかりません」と、無念さをにじませた。
一方、優勝したポルシェは、LMP1プログラムを統括するフリッツ・エンツィンガー氏がレース終了後、「何よりも最初に、トヨタがレースで見せた素晴らしいパフォーマンスに、敬意を表したい」と、トヨタの健闘を讃えた。
「なぜル・マンの神様はここまでトヨタを嫌うのか...」
ル・マン24時間耐久レースは、1923年に初めて開催された歴史あるレースで、「世界三大レース」の一つ。日本からも、これまで多くの自動車メーカーが挑戦してきたが、総合優勝は1991年の、ロータリーエンジンを搭載したマツダスピードの「マツダ787B」が初めてで唯一だ。
トヨタのル・マンでの「逆転負け」に、インターネットには、
「なかなか劇的な展開だった。しばらく語り継がれるほどにインパクトあったよ」
「こんな筋書って・・・ 手が震えるほど興奮したのは久しぶり」
と、劇的なレースに感動したとの声に交じり、
「24時間走って残り3分走れないってどういうことよ」
「ラスト1周で壊れるとか、優勝より難しそうだな」
「なぜル・マンの神様はここまでトヨタを嫌うのか...」
「ドーハの悲劇を超えた」
などと、多くの「悔しい」の声が寄せられている。
一方、今回の突然の失速の原因の究明やその公表を求める声は少なくない。
トヨタは原因について、「現時点でわかっていることはありません」という。また、原因の公表についても、「今後のことは何とも言えませんが、おそらく公表することはないと思います」と話した。
豊田章男社長はホームページで、「TOYOTA GAZOO Racingは『負け嫌い』です。負けることを知らずに戦うのでなく、本当の『負け』を味あわさせてもらった我々は、来年もまた、世界耐久選手権という戦いに... そして、このル・マン24時間という戦いに戻ってまいります」と、2017年のル・マン参戦へ、決意を新たにしている。