小泉進次郎氏の「宿題」への回答? 農林中金が示した「生き残り策」の出来栄え

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   農林中央金庫は2016年5月下旬、日本の農林水産業の競争力強化を支援するため総額500億円規模の出資枠を設定すると発表した。農林中金と言えば今年初め、自民党の小泉進次郎・農林部会長から「今のように農業への貸し出しが少ないなら不要」と名指しで批判され、波紋を呼んだ。今回の発表は「不要論」を何とかはね返そうとの意図もあるとみられているが、思惑通りにことが運ぶかは見通せない。

   農林中金によると、新たな出資枠は「F&A(Food and Agri)成長産業化出資枠」。農林中金は従来、「農業所得増大・地域活性化応援プログラム」などにより、「川上(生産者)」に対する助成を主とした直接・間接のサポートを1000億円規模で実施してきた。新たな投資枠が対象に想定するのは「川下(産業界)」で、その高付加価値化、生産性向上を支援するため、専門的知見を持った人材とともにリスクマネーを提供する、としている。

  • 「ぶっ壊す」の論調は父親譲りか?(写真は2015年9月撮影)
    「ぶっ壊す」の論調は父親譲りか?(写真は2015年9月撮影)
  • 「ぶっ壊す」の論調は父親譲りか?(写真は2015年9月撮影)

「農家のためにならないなら要らない」

   そもそもの、小泉部会長の発言は、1月14日、自民党の農林関係会合の終了後に記者団に語ったものだ。いわく、「(農林中金は)融資のうち農業に回っている金額は0.1%だけ。農家のためにならないなら要らない」とぶちあげた。その後も折に触れ、メディアなどで同趣旨の発言を繰り返している。父親の純一郎元首相譲りの「ぶっ壊す」の論調だ。

   確かに、農林中金は全国の農協を通じて組合員らからお金を集め、これを主に国債や株式などの有価証券で運用し、その運用益を農協や組合員に還元するというのが、現在の姿だ。小泉部会長が言うように、2014年度末の資金量は93.6兆円とメガバンクに匹敵する。資金の5割以上は有価証券などで運用しており、貸出残高は19.9兆円。このうち農家への貸出は234億円にとどまっているため、貸出残高に占める農家の割合が0.1%にとどまる、というわけだ。ほとんど農家に融資されないなら、農林中金の存在意義とは何か、と言う主張は、なるほどわかりやすい。

   ただ、実際の農家への融資は主に全国の農協が担っており、農林中金としてはその農協を支援する役割があるだけに、話はそう単純ではない。このため、農林中金幹部は「小泉部会長発言の前後で自民党と農林中金の関係は変わっていない」と強がる。とはいえ、農林中金によれば国内の農業関連融資残高は計4.1兆円程度で漸減傾向にあり、そもそも規模は限られる。

「まな板の上の鯉」

   また、折しも夏の人事異動で農林水産省の新事務次官に、農協改革を手がけたことで「改革派」と目される奥原正明経営局長が就任することになった。奥原氏は前任の本川一善氏と同期(1979年)入省。霞が関の常識から言えば、同期の次官が続くことは自然な流れではないため、安倍政権の強い意向が反映されたとみられている。自民党の小泉部会長だけでなく、政府側も支持率維持のためにも農業を何らかの「改革」でもう少しかき回そうとする狙いが透ける。

   農林中金としても「まな板の上の鯉」になりそうな気配を察し、小泉部会長への回答として出してきたのが今回の新たな出資枠なのだろう。「川下(産業界)」の支援先は、農薬などの資材を扱う企業とみられる。近年、農協から農家に販売する資材価格が高いことが問題視されているだけに、より安価な農薬などの流通を促すことにつなげたいようだ。参院選前ということもあってか、小泉部会長や政権から農林中金の新融資枠について表立った反応はみられないが、参院選後に新たなバトルのタネとなる可能性もある。

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