鼓膜は、耳の中で音をとらえる重要な器官だ。約0.1ミリの薄い膜で、外から強い衝撃を受けると破れることもある。
耳鼻科医に聞くと、日常生活の意外な場面で鼓膜が破れた患者がしばしば訪れるそうだ。その治療法は、意外ともいえる内容だった。
耳管が開かなくなると「圧」が均等にできない
半月ほどの間に、「鼓膜が破れた」というニュースが立て続けに流れた。
2016年6月9日、天台宗総本山・比叡山延暦寺(滋賀県大津市)がウェブサイト上に謝罪文を掲載した。その理由は、40歳の僧侶が修行僧の顔を殴り、左耳の鼓膜を破るけがを負わせたためだった。
5月27日には、東京・羽田空港発の高知行き全日空561便が離陸直後に機内で気圧の異常低下を起こし、乗客の30代女性の鼓膜が破れた。
鼓膜の奥には中耳と呼ばれる器官があり、そこから耳管を通して鼻につながっている。日本航空のウェブサイトによると、飛行機が上昇や下降をする際に機内の気圧が変化し、中耳の空気が膨張・収縮しようとして耳が痛くなったりすることがある。通常、耳管が鼻側で開き体外と中耳の圧が等しくなるが、かぜやアレルギー性鼻炎で鼻の粘膜が腫れると耳管が開かなくなり、中耳炎になる恐れがある。今回の全日空機のケースでは、急激な気圧の変化に30代女性の耳が圧を調節しきれなかったかもしれない。そもそも女性が、鼻炎をはじめ耳管が開かない原因を持っていた可能性もあるだろう。
耳鼻科の開業医に取材すると、意外な理由で鼓膜が破れてクリニックを訪れる患者が少なくないようだ。
「一番多い原因は、耳かきです」
最近では、自分で耳かきしている手に飼い猫がじゃれついてきて、思わず「ガリッ」とやってしまったケースがあった。親が子どもの耳掃除をしている途中のアクシデントが、比較的多いという。
ほかにも、バスケットボールのプレー中にボールが耳に当たったり、野球部の大学生がグラウンドでスプリンクラーの水が勢いよく耳に入ったりして鼓膜が破れた事例もあった。森でタケノコ採りをしている最中、竹か笹の先が耳の穴に入ったという運の悪い患者もいたそうだ。
機内では唾を飲んだり、あめを舐めたりすると効果的
鼓膜が破れる際は、かなりの激痛が走る。当然、耳は聞こえにくくなり不便だが、実は「耳の穴に軽く綿を詰めた程度」で、完全に聞こえなくなるわけではない。
では治療法は何か。前出の耳鼻科医は、「基本は経過観察です」と話した。要は「放置」で、薬を塗布するような処置も行わない。鼓膜は再生能力が強く、時間がたつと新しく生まれ変わる。ただし、2か月を目安に治らないと判断した場合は手術をするそうだ。
ボールが耳を直撃したり、いきなり殴られたりする事故は避けようがない。一方、機内での気圧の変化に対応することは、ある程度準備ができる。まず、かぜやアレルギー性鼻炎の人は、搭乗前に治療を受けておいた方がよい。耳管の内側と外側で気圧差をなくすために、機内では頻繁に唾を飲んだり、あめを舐めたりするのが有効だ。
飛行機に乗る際など気圧の変化による耳の痛みを軽減する、特殊な耳栓もある。耳鼻科医が診察した患者の中には、この耳栓が効果的だったと話した人がいたそうだ。飛行機用耳栓は、インターネットや薬局で数百円から2000円前後で手軽に購入できるので、予防の点ではよいかもしれない。