マーリンズのイチローが日米通算安打数で「世界一」になった。大リーグ記録を抜いたとして大騒ぎなのだが、記録の扱いは議論を呼びそうである。
イチローがピート・ローズの持つ大リーグ最多4256安打を抜いたのは2016年6月15日のパドレス戦(カリフォルニア州サンディエゴ)。内野安打でタイとし、最終打席で右翼線二塁打を放ち、一気に抜いた。
スタンドのファン、チームメートは派手に祝福
スタンドのファン、チームメートは派手に祝福した。
「(観客のスタンディングオベーションに)ああいう反応をしてもらえるとすごくうれしい」
ビジターゲームだっただけに感慨はひとしおだったようだ。敵味方は関係なく、記録を素直に認めるファンに精一杯の応対を送った。ただ、イチローの胸の内は周囲の騒ぎと比べ冷静だった。
「(ローズを超えることに)目標を設定していなかったので、そんなに大きなことという感じは全くしない」
このコメントは、大リーグ記録に対する考え方が表れている。球聖タイ・カッブを破ったローズの記録は、実は「大リーグの誇り」となっており、日本球界の数字を加えた短絡な足し算で比べた場合、大リーグの中でどう評価されるかを知っているからだと思う。
記録が近づいたとき、ローズの発言が全国紙のUSAトゥデー紙に載った。
「(メディアは)そのうちイチローの高校時代の安打数まで数え始めるんじゃないか」
オレは最初からメジャーで打った本数だ、というのである。言外に、せいぜい3Aクラスの日本の数字をなぜ合算する意味があるのか、ともうかがえる。
「日米通算記録」項目の新設を
ローズの全盛時代はレッズでプレーしていたころ。その1960年代から70年代のナ・リーグの投手はドジャースのサンディ・コーファックス、カージナルスのボブ・ギブソン、メッツのトム・シーバー、フィリーズのスティーブ・カールトンら殿堂入りしている豪腕投手がずらり。
現在と1本の安打の価値が違うよ、とローズは言いたいのだ。ハンク・アーロンが通算755本塁打をバリー・ボンズに抜かれたときも同じようなことを言っている。
レベルの比較はともかく、日米通算記録というのは、大リーグにも日本プロ野球の公式記録に載らない。現状は、勝手にイベントのように騒いでいるという状況なのだ。大リーグ記録を相手に記録更新を軽々に扱うのは難しいことを日本のメディアは自覚したほうがいい。
日本選手が大リーグでプレーすることが日常化している今、日本の公式記録に「日米通算記録」の項目を新設したらどうか。毎年、プロ野球はオフィシャル・ベースボールガイドという記録集を出版している。
これまで王貞治の本塁打記録をはじめ、江夏豊のシーズン三振奪取、衣笠祥雄の連続試合出場、福本豊の通算盗塁など大リーグの数字を超えている部門がある。これらを含め、「日本と大リーグ」のコーナーがあってもいい。スポーツ記録なのだからファンが楽しめる内容にしてほしいと思う。
イチローの記録は「その時が来た」ことを訴えている。
(敬称略 スポーツジャーナリスト・菅谷 齊)