米大リーグ、テキサス・レンジャーズのダルビッシュ有投手をはじめ、近年では日本人の野球選手が「トミー・ジョン手術」を受けるようになった。肘にメスを入れる手術だが、米国では昨今、10代の若さで受けるケースが急増している。
成長期の体にメスを入れる――。どこか不安を感じてしまうが、リスクはないのか。日本の中高生ではどうだろうか。
「部活2年半しかないのに手術受けたら...」
トミー・ジョン手術とは、投手にとって肘の内側の靭帯が機能不全になった際に施す靭帯の再建手術で、利き腕でない方の肘から腱を移植する。手術後3か月ほどでキャッチボールを開始し、約1年後に通常の投球ができるようリハビリを行っていくのが一般的だ。
1974年に米国で考案され、最初にこの手術を受けた投手の名が付けられた。当初は全力投球できるまでに回復する確率は1%未満とも言われる手術だった。それがこの40年ほどで回復率は90%ほどまで上がり、手術後に球速が上がった例も報告されている。ボストン・レッドソックスの田澤純一投手は10年4月に手術を受け、11年5月の実戦復帰後、以前は150キロだった球速が156キロへ上がっている。
2016年6月8日付の米ウォール・ストリート・ジャーナル日本語電子版は、米国のある整形外科医らが07~11年の間にトミー・ジョン手術を行った患者790人を調べたところ、15~19歳の占める割合が毎年9%以上増加していたと報じた。米スポーツ医学研究所理事会の会長は、若い野球選手の肩や肘の負傷が00年以降5~7倍に急増しており、同手術を受ける過半数は高校生だと記事の中で述べている。手術が増える背景として、米国の少年野球チームは2、3人の投手に依存している上、多くの子どもが複数のチームを掛け持ちしてプレーしているため、投球過多になってしまう点を挙げている。
一方、日本の若者でトミー・ジョン手術を行う例は少ないという。スポーツ医学が専門の千葉県の整形外科医は16年6月13日、J-CASTヘルスケアの取材に対し、こう答えた。
「中高生の投球で、靭帯の手術が必要なほど深刻になることは少ない。仮に手術するにしても、リハビリでの治療を試した後、どうしても手術しないとダメだという場合だけ。けがの程度によりますが、必要がなければ基本的には行いません。まして学校で部活ができるのは2年半ほどしかないのに、手術したら復帰まで1年はかかりますから、半分くらい失ってしまう。リハビリのみの治療なら大体3か月程度で済みます」