インターネット大手の楽天が、英国とスペイン、オーストリアのEC(電子商取引)事業とそれぞれの拠点を、2016年8月末までに閉鎖する。
欧州事業を見直し、今後は将来の成長を見据えて、フランス、ドイツでの事業に投資を集中させるとしている。
フランスとドイツに投資を集中
楽天は、欧州事業において、将来大きな成長が期待できる投資分野に集中するため、戦略を見直すと、2016年6月8日に発表した。英国のマーケットプレイス「Rakuten.co.uk」とケンブリッジにある拠点と、スペインの「Rakuten Spain」とバルセロナの拠点、オーストリアの「Rakuten Austria」とウィーンの拠点を、16年8月末までに閉鎖する。
「Rakuten.co.uk」は、2011年に楽天が「play.com」を買収。14年に「Rakuten.co.uk」として再スタートを切った。「Rakuten Austria」と「Rakuten Spain」は楽天が独自に立ち上げ、13年にサービスを開始していた。
楽天は、閉鎖の理由を「英国とスペインにおいては、事業と成長規模を踏まえて投資戦略を見直す計画をしています」と説明。
また、「Rakuten Austria」については、事業は「黒字化しつつあった」が、出店者の売り上げの85%がドイツのマーケットプレイスプラットフォーム(サイト)からで、「今後、(ドイツの)『Rakuten.de』のサイトからサービスを提供することで、(中略)オーストリア国内のすべてのユーザーはドイツのマーケットプレイスで提供されるメリットとサービスを享受できるようになります」と説明している。
その一方で、楽天は欧州での動画配信サービスの「Wuaki.tv」や電子書籍サービス「Kobo」などのデジタルコンテンツ事業や、無料通話・メッセージアプリの「Viber」のサービスは引き続き提供していくという。また、フランスとドイツでのEC事業には、十分な事業規模と持続的な成長の可能性があると判断。投資を集中していくという。
フランスのEC事業では、ユーザーのロイヤルティ強化のため新たな会員制プログラム「Price Club」の提供を5月末に開始。ドイツではサービスの質の向上を目的に、コミッション(システム利用料)を引き下げた「Rakuten Pro」プランを提供している。
中国のオンラインショッピングモールからも撤退
こうした楽天の欧州戦略の見直しに、インターネットでは、
「欧州でもあの見づらいサイトじゃあ、そら誰も買わんだろうな」
「そもそも楽天て失敗多すぎないか? やってんだか、やってないのかもわからんわ」
「(社内)公用語は英語です。主な収入源は日本です」
などといった具合で、EC市場の競合の激しさや、サイトのデザインや使いやすさなどに言及する声が寄せられている。
楽天が海外戦略を強めたのは、少子高齢化の影響から、日本国内のEC市場の成長が将来的に頭打ちになることが予想されたためだ。2010年6月に子会社化したフランス最大のECサイト「Price Minister」は、その代表格ともいえる。このECサイトは1200万人の会員がおり、商品数は1億6000万点。月間サイト訪問者数は1100万人とフランス国内トップという。旅行価格比較サイトや不動産情報サイトも運営している。
2014年9月には、米最大級の会員制キャッシュバックサイトの「Ebates」を買収。当時、三木谷浩史社長は「この買収をステップに、オープン型のサイトに進出し、次世代のECプラットフォームを提案していきたい」などと話していた。
その一方で、2012年5月には中国の検索エンジン最大手、百度(Baidu)と提携して立ち上げた中国のオンラインショッピングモールを、同業他社との競争激化と業績不振を理由に撤退。海外事業の難しさも経験した。
楽天の2015年12月期決算(通期)によると、売上高は前期比19.2%増の7135億円、営業利益は11%減の946億円と増収減益だった。足を引っ張ったのがフランスの「Price Minister」と2011年に傘下に収めたカナダの電子書籍「コボ」の2社で、381億円の減損損失のうち6割超を占めている。
その半面、好調だったのが、皮肉にも「楽天市場」や「楽天トラベル」を中心にした国内のEC事業。金融事業とともに、成長を続けている。