ソフトバンクグループが保有株売却で巨額の資金確保に舵を切っている。2016年6月に入って、保有する中国のネット通販最大手「阿里巴巴(アリババ)集団」やゲーム大手「ガンホー・オンライン・エンターテイメント」の株式を売却すると発表、これにより合計1兆1000億円以上を確保するというのだ。業界や金融市場では、大型M&A(企業の合併・買収)など、ソフトバンクの次の一手に関心が集まる。
世間を驚かせたのが、ソフトバンクが保有するアリババ株式の売却発表(6月1日)だ。売却額は、79億ドル(約8600億円)としていたが、その後、追加売却を相次いで発表し、計100億ドル(約1兆900億円)に達した。投資家の需要が多かったために追加売却を決めたためという。これにより、ソフトバンクのアリババ株の保有比率は32.2%から約27%に低下するが、引き続き筆頭株主であり、持ち分法適用会社であることも変わらない。
ガンホー株の売却も発表
ソフトバンクの孫正義社長はアリババを率いるジャック・マー会長と1999年のアリババ創業間もないころから親交を結び、いち早くアリババに出資した。「インターネット」と「中国」は21世紀初頭の世界経済の2大テーマ。この波に乗ってアリババは急成長を果たし、ソフトバンクの投資額105億円は、時価約6兆7000億円に大化けした。
続いて6月6日にガンホー株の売却も発表。同社はスマートフォン向けゲームとして人気の「パズル&ドラゴンズ」を手掛け、孫正義社長の実弟、泰蔵氏が創業した会社でもあるが、パズドラに続くヒットに恵まれず、2015年12月期は23%の営業減益に沈んだ。泰蔵氏は、責任を取ったわけではないとされるが、この3月、代表権を持つ会長から代表権のない取締役に降格した。
このガンホーが株式の公開買い付け(TOB)によってソフトバンクが売却する株式を取得することになった。ガンホーの買い付け総額は約730億円で、ソフトバンクの持ち株比率は28%強から2%程度に低下し、持ち分法適用会社からも外れることになる。
ソフトバンクは巨額資金確保の目的について、「財務体質の改善と事業強化のため」と説明する。社債を含め、ソフトバンクの有利子負債は2016年3月末時点で約12兆円に達する。「アリババ株を『担保』に銀行から融資を引き出せた」(国内大手銀幹部)とされ、アリババ株は借金をテコに規模を広げるソフトバンクの「レバレッジ経営」の要に位置する。一部とはいえ、その虎の子を手放すのも、含み益の一部を「実現益」として財務体質を強化するという選択肢は、決して荒唐無稽とは言えない。一方、世界中で歴史的な低金利下にある中で、借金返済をなぜ今、急ぐのか、いぶかる向きもある。