便秘はつらい症状だが、「どうせ、そのうち出るサ」「お肌にはよくないけど、便秘で死んだという話は聞かないし...」などと放置されがちだ。実は、命にかかわる「危険な病気」につながるらしいことがわかった。
東北大学大学院公衆衛生学分野の本藏賢治氏らのチームが、4日に1回以下しか排便しない人は、1日に1回以上排便する人に比べ、心筋梗塞や脳卒中などの循環器疾患で死亡する危険性が約1.4~2倍高いという研究をまとめた。論文は、国際医学専門誌「Atherosclerosis(動脈硬化症)」の2016年3月号に発表された。
意外なことに便秘と大腸がんは関係ないけれど...
循環器疾患とは、血液を全身に行き渡らせる臓器である心臓や血管が正常に働かなくなるすべての病気をいう。高血圧や心疾患(心筋梗塞・心不全)、脳血管疾患(脳梗塞・脳出血・くも膜下出血)、大動脈瘤など、心臓と脳の病気全般をさす。便秘と循環器疾患の死亡リスクとの関連を調べた研究は初めてだ。
便秘は、ニキビや吹き出物などの肌の疾患や痔の原因になることはわかっているが、命にかかわる病気との関連は指摘されてこなかった。よく頑固な便秘による「宿便」が大腸がんリスクを高めるといわれるが、国立がん研究センターが約6万人を対象にした研究(2006年発表)によると、「週に2~3回しか排便がない人でも、毎日ある人との間で大腸がんの発症リスクに差がなかった」ということだった。むしろ、下痢症状のひどい人に直腸がんとの関連が認められた。
特に脳卒中による死亡リスクが高くなる
本藏氏らのチームは、宮城県大崎保健所の管内に住む国民健康保険に加入している40~79歳の住民から、調査時点でがんや循環器疾患にかかったことのない男女4万5112人を対象に選び、約13年間追跡調査した。対象者全員に排便の頻度について質問をし、「1日1回以上」「2~3日に1回」「4日に1回以下」の3つのグループに分けた。
期間中に2018人が循環器疾患で死亡した。対象者には生活習慣や日ごろのストレスなどを尋ねており、年齢や性別に加え、それらの要素も考慮に入れながら排便頻度と死亡リスクの関連を分析すると、次のことがわかった。
(1)循環器疾患の死亡リスクは、排便頻度が少なくなる(便秘の度合いが増す)につれて高くなった。
(2)その割合は「1日1回以上」の人に比べ、「2~3日に1回」の人は1.21倍、「4日に1回以下」の人は1.39倍になった。
(3)特に脳卒中による死亡リスクが高くなり、「1日1回以上」の人に比べ、「2~3日に1回」の人は1.29倍、「4日に1回以下」の人は1.90倍と約2倍になった。
トイレでいきむことと、便秘になる食生活が悪影響に?
なぜ、便秘が循環器疾患、とりわけ脳卒中の死亡リスクを高めるかについては、論文でメカニズムを明らかにしていない。しかし、専門家たちのウェブサイトをみると、次のように様々な見方が示されている。
「心臓や脳血管の病気と便秘は、全然関係がなさそうに思えますが、排便の時にいきむと血圧があがるのは確かです。また、腸内細菌の変化が高血圧や動脈硬化に関連することもわかっているので、何か便秘になるような食生活と循環器疾患になりやすい食生活との間で、共通のものがあるのかもしれません」
「便秘になりやすい人には、運動不足、食物繊維の不足、水分不足、極端なダイエット、腹筋力の低下など体によくない共通の生活習慣があります。これらの習慣は血液をドロドロにして血圧を高め、様々な毒素を体内にためこむ結果になります。そうした習慣が循環器疾患につながるのかもしれません」
「あくまで推測ですが、便秘の人がよく飲む下剤の副作用で循環器疾患になりやすいのかもしれません」
いずれにしろ、便秘のせいですぐに心臓や脳の病気になるわけでなく、便秘になるような体質が関わってくるらしい。便秘の人は軽く考えて放置しないで、食べ物に気を配り、運動をして、生活全般を見直すことから始めよう。