東北福祉大国見キャンパス(宮城県仙台市)の「通学ルート」をめぐり、学生の「通行禁止」を求める周辺住民と大学側の対立が「ドロ沼化」している。
7年前に双方は1度「和解」しているが、2016年4月15日に大学側が申立書を提出したことで対立は「再燃」。問題となっている私道の持分(所有権)比率や、大学の主張に反対する住民の人数など、双方の意見が大きく食い違い、抜き差しならぬ対立に発展している。
最短通学ルートを通る学生の騒音問題が発端
騒動の発端は07年にさかのぼる。JR東北福祉大前駅の開業にあわせ、同大は駅前に「ステーションキャンパス」を開設。これにより、駅から約300メートル離れた「国見キャンパス」へと向かう学生は、住宅街の一角を抜ける「最短ルート」を利用するようになった。
講義のため両キャンパスを行き来する学生もいたため、07年当時は1日あたり最大で3000人が最短ルートを通っていたという。通行する学生の騒音に悩んだ沿道の住民ら9人は08年4月、ルート上にある私道の「学生の通行禁止」を求める仮処分を仙台地裁に申請。
翌5月に和解が成立し、「講義の実施日には最短ルートの入り口に教職員を配置し、学生を別の道へ誘導する」といった対策が実施されるようになった。和解の成立後、大学側の対応により、最短ルートを通る学生は激減。だが、その後も私道を通る学生がいたため、一部住民は09年に『学生通行禁止』を掲げた看板を設置した。
今度は東北福祉大側が、問題となった私道の一部を迂回する形で、大学や住民が所有する私道を使った「新ルート」を通学路として認めるよう求める申立書を16年4月15日に仙台簡裁に提出した。
東北福祉大広報室の担当者は16年6月8日のJ-CASTニュースの取材に対し、
「最短ルートの通行を禁止された学生は、住宅街を迂回して公道を利用するようになったが、公道は車の通行量が多く、歩道の幅は約2メートルしかない。通学ピーク時には、歩道から学生があふれてしまい危険な状況になっている。通学ルートを分散する必要があると考えている」
と申立書を提出した理由について説明する。大学側の代理弁護人によれば、いま学生が集中している公道では「過去に交通事故による死亡者も出ている」という。
私道の「持分」や「住民」めぐり意見対立
大学の申し立てをめぐる民事調停は6月7日に仙台簡裁で行われたが、住民側は要求を拒否。住民側の代理人弁護士によれば、周辺住民らは「新ルートを認めた場合、学生が集中して公道までの行き来などに通行の支障となる」などと主張している。
こうした結果に、東北福祉大の広報担当者は「自分の家の前を通るわけじゃないのに、なぜ理解を得られないのか」と首をひねる。
続けて、
「最初の問題の私道については、東北福祉大も所有権を持っているんです」
と話し、所有権は全て住民にあると受け止られているのは誤解だとしている。ただ、「私道の持ち分比率」について、大学側の認識と住民側の見解とは食い違っている。
さらに、通学路の利用に反対する「住民の数」についても、双方の主張は大きく食い違う。大学側によれば、通学路の利用に反対している住民は「8人だけ」。だが、住民側は「代表者が8人と認識している」と話しており、こうした認識の差が、「私道の所有比率」をめぐる対立にもつながっている可能性がある。
大学が2015年に新設した施設をめぐっても
また、問題となっているルートの一角にある大学の農業体験用の施設をめぐっても、対立はエスカレートしている。大学は、この施設を利用する学生が「私道を通らざるを得ない」と主張するが、住民側は「(施設が)講義で使われているようには思えない」と反論し、施設が15年に新設されたものであることから、住民側の代理人は、
「今回の申し立てをするために、わざわざ施設を作ったのでは」
とまで指摘している。
「ドロ沼」の様相を見せている今回の「通学路問題」。大学側は「地域とは円満にやっていきたいが、『学生通行禁止』を設置するなど、理不尽な要求に応じるつもりはない」と話す。
一方の住民側の代理人は、「いきなり調停という形で来た印象が強く、大学の考えを図りかねている」といい、「とにかく、話し合いの場を継続させていきたい」としている。
次回調停は8月2日に仙台簡裁で行われる。