「男は目で、女は耳で恋に落ちる」という言葉がある。男性の多くは女性の容姿に惹かれるが、女性の多くは男性の話す内容や声の優しさ、中でも低い声にキュンとなってしまうことをさす。
ところが、男性の低い声は女性を魅了するためではなく、他の男性を威圧するためであることが、米ペンシルベニア州立大学の研究で明らかになった。英王立協会誌「Proceedings of the Royal Society」(電子版)の2016年5月4日号に発表された。
人類学では「人間は適度に一夫多妻の霊長類」
これまでの人間に近い霊長類の研究では、オスの低い声はメスをひきつけるためという結果が出ている。ハーレムを作るサルから自由恋愛のサルまで、様々な種類のオスとメスの声の高さの違いを比較すると、一夫多妻制が強いサルほど、オスとメスの声の高さの落差が大きい。つまり、大きなハーレムを作るオスはドスの効いた低い声になり、その低音に惹かれて多くのメスが集まってくるというわけだ。逆に自由恋愛や一夫一妻制に近づくにつれ、声の高さの性差は減っていく。ちなみに、人間の声は男女差が残っており、人類学では「人間は適度に一夫多妻の霊長類」に分類されるという。
そこで、研究チームは人間の男女の声の高低が、どの程度異性や同性に影響を与えているのか、1126人(男性558人・女性568人)の男女の会話を録音して調べた。これらの声を別の約1100人の男女に聞いてもらい、どう感じたかを心理学の様々な評価方法で点数化した。その結果、太くて低い男性の声ほど、男性は「支配的」と感じる傾向が強いことがわかった。つまり、「威圧される」のだ。一方、女性の方は、特に「威圧的」と感じる傾向はなかった。また、「交際相手として魅力を感じる」度合いにも一貫性はまったくみられなかった。「男性の低い声に性的魅力を感じる」という従来のイメージは間違っていたわけだ。
声の低い男は「攻撃的で怖い」ホルモンを出す
研究チームは、男性558人の血液検査も行っていた。その結果、声が低い男性は男性ホルモンのテストステロンのレベルが高く、ストレスホルモンのコレチゾールのレベルが低いことがわかった。一般的にテストステロンが高い人は「男らしい」といわれる。筋骨がたくましく、攻撃的な性格になりがちだ。また、コレチゾールはストレスを感じた時に、体調を崩さないよう防御のために分泌される。コレチゾールの量が少ないと、ちょっとしたことでイライラし、怒りっぽくなる。つまり、テストステロンが多く、かつコレチゾールが少ない人は「攻撃的で怖い」ということなる。
では、声の高い女性は男性にとって魅力的なの?
研究リーダーのデイビッド・ブッツ教授は「人間の女性は、オスの美しい羽で誘惑されるクジャクのメスとは違います。たとえば、『男らしさ』の象徴とされる男性のあごヒゲは、支配的な外見で、恐ろしさや危険さといった印象を与えます。多くの女性はヒゲがちゃんと剃られた男性の方を好むものです」と語っている。
つまり、男性の低い声は「女性へのアピールではなく、同性のライバルを威嚇するため」だったわけだ。ちなみに、今回の研究では、女性の高い声が男性にアピールするという従来のイメージが正しいかどうかについても調べた。しかし、何の関連性も得られなかったという。