2016年4月に人事案を巡って内紛が表面化したセブン&アイ・ホールディングス(HD)。5月26日に開かれた株主総会を経て、日本にコンビニエンスストアを導入し、セブン&アイHDを一大流通グループに成長させた前会長の鈴木敏文氏が正式に一線を退いた。
24年ぶりのトップ交代。新たにグループを率いることになったのが、コンビニ事業を展開する子会社セブン-イレブン・ジャパンの社長を7年間務めた井阪隆一HD社長だ。
歯に衣着せぬ発言
井阪氏と言えば、4月に鈴木氏が主導した人事案で、事実上更迭させられそうになった人物。鈴木氏は井阪氏に退任を拒否され、4月7日の取締役会で人事案が否決された結果、会長を退く決意をしたのは周知の事実。
4月7日の取締役会後に開いた記者会見で、鈴木氏は「取締役会で井阪君を信任したのに、私がやっていくのは将来に禍根を残すことになる」と経営から身を退く決意を語った。会見に集まっていた200人超の報道陣は「これから鈴木派と反鈴木派の内紛が本格化する」と「宣戦布告」を予想し身構えていただけに、突然の「内紛終了」を告げる引退表明は驚きをもって迎えられた。ただ、もっと衝撃だったのは引退宣言よりも、自らが育て上げた部下に対する鈴木氏の歯に衣着せぬ発言だった。
鈴木氏は井阪氏について、「(セブン-イレブン・ジャパンのトップとして)物足りなさがあった」「彼からは改革案が出てこなかった」「(7日の取締役会でも好調なコンビニ事業について)いかにも1人でやってきたという発言があり、がっかりした」などと辛辣なコメントを連発。セブン&アイHDを売上高10兆円の企業に育て上げたカリスマ経営者とは思えない発言が報道されると、ネット上などで一連の内紛は鈴木氏の老醜がもたらしたものだとするコメントも登場した。
最後は、求めに応じて握手を交わし和解を演出
こうした経緯から5月26日の株主総会での鈴木氏の発言が注目されていた。
総会ではコンビニオーナーとみられる株主らから「セブン成長の最大の功労者」「退任を延期できないのか」「長い間、お世話になった」など慰留や感謝の言葉が相次ぎ、鈴木氏の存在の大きさを改めて印象付けた。
これに対し、井阪氏ら新経営陣には「功労者をなぜ追い出すのか」といった厳しい意見が噴出。鈴木氏は「若い人が後を継いでくれると自信が持てた」と井阪氏らへの支持を訴えることでその場を収め、最後は求めに応じて井阪氏と握手を交わし和解を演出した。
最近は「これからは新しい人たちの時代」「新体制には何も注文をつけるつもりはない」などと周辺に漏らしていたという鈴木氏。引退会見時とは打って変わって憑きものが落ちたような総会での対応にも、業界からは「内紛劇の末の退場に忸怩たる思いはあるはず」との指摘はあるものの、「日本のコンビニをここまで育て上げた鈴木氏にとって、会社の恥をさらして企業イメージが悪化するのは耐えられないこと。自分を信じてついてきてくれたコンビニオーナーや社員への背信にもなるので矛を収めた」(業界関係者)ということか。