リオデジャネイロ五輪開幕が2016年8月に迫る中、開催国ブラジルでは「ジカ熱」の脅威が広まっている。五輪出場が濃厚な世界的なアスリートの間でも、不安を漏らしたり、仮に代表に選ばれても出場辞退の可能性を匂わせたりする声が出ている。
選手が軒並み五輪不出場となれば、大会の開催自体が危ぶまれる。
世界的有名アスリートが不出場を検討
ジカ熱はヤブカ属の蚊を介してかかる感染症で、軽度の発熱、発疹、手足のマヒなどが主な症状だ。女性が感染すると、新生児に生まれつき頭が小さくなる「小頭症」を起こす可能性がある。
近年、ブラジルを含む中南米で大流行が続いており、リオ五輪出場の可能性があるアスリートらも不安を口にする。2016年5月31日付AFP通信の記事によると、スペイン男子バスケットボールのパウ・ガソル選手は5月30日、ジカ熱の蔓延を理由にリオ五輪欠場を検討していると述べた。ガソル選手は同国を代表するプレーヤーで、米プロバスケットボール(NBA)のシカゴ・ブルズで活躍中だ。同時に、大学で医学を学んだ経験があり、母親も医師。ジカ熱についての情報も個人的に集めているという。ガソル選手は、オーストラリアの男子ゴルフ選手がすでにリオ五輪出場辞退を表明したことを挙げて、「他の選手が同じことをしても不思議はない」と話した。
女性アスリートでは、米国女子サッカーのゴールキーパーで、ワールドカップでは2大会連続(11年、15年)で最優秀GKに選ばれたホープ・ソロ選手が16年2月9日、米誌「スポーツ・イラストレイテッド」の取材に対し、リオ五輪について「今日選択を迫られるなら、私は出場しない」と述べた。「子どもの健康を犠牲にするリスクを負って国のために出場するか、アスリートとしての夢や目標をあきらめるか。こんな選択を強いられるのは勘弁」と発言したという。その後5月11日付の同誌電子版記事によると、ソロ選手は、「リオ行き」は決心したがジカ熱への不安はいまだにぬぐえず、現地滞在中は極力外出しないもようだ。
一方で、あまり気にしない選手もいる。スペイン男子テニスの元世界ランキング1位、ラファエル・ナダル選手は、16年2月に開かれたリオ・オープンの前、街で人々が普通に生活しているのを見て「さほど深刻ではなさそうだ」と述べたという。2月17日付でロイター通信が報じた。なお、ナダル選手は予定どおり同大会に出場している。
日本人アスリートからも懸念する声が出た。男子ゴルフの松山英樹選手が5月31日、米国での試合前、リオ五輪の出場について以下のように言及した。
「結婚していたり子どもがいたりする人の方が気になると思うが、僕は結婚していないけど気になる。JOC(日本オリンピック委員会)からも、誰からも情報が入らない。そんな状態で行けと言われても不安はある」
「コンディショニングガイド」配布して注意を徹底
JOCは日本人アスリート向けに、どのような対策に動いているのか。JOC広報企画部は16年6月2日、J-CASTヘルスケアの取材に対し、「『コンディショニングガイド』を作成し、各競技団体に配布している」と話した。これはJOCの医・科学部門が中心となって、現地調査で得た情報をもとに作成。移動や食事、感染症についても注意点が書かれている。ブラジルで発症する可能性がある代表的な11の感染症を挙げ、入国前・中・後の対策を記載。例えば、入国前に各種ワクチンの接種を推奨するほか、入国中は、多くが虫を媒介とすることから(1)なるべく肌の露出を避ける(2)虫よけ剤、殺虫剤を有効に利用する、の2点を対策のポイントに挙げている。
JOC広報企画部は、「(感染症などの対策は)基本的に競技ごとの連盟・団体を通して行います。また、どの選手が出場するかの通知がまだ正式に届いていない段階なので、我々が特定の選手に直接言うことはしません」と説明。さらに「スポーツ庁、厚生労働省、文部科学省、外務省とも連携しながら、今後必要があればさらなる対策をとります」と補足した。
スポーツ庁オリンピック・パラリンピック課は同日、電話取材に対し、「まずJOCのコンディショニングガイドの周知を徹底し、今後も注意喚起を続けます。最終的には選手個々の自己管理によるところも大きいですね」と答えた。
諸外国の例を見ると、ジカ熱は性交渉でも感染のおそれがあることから、オーストラリア・オリンピック委員会(AOC)では、ウイルス感染防止に特化した特製コンドームを選手に配布すると決定している。
なお、世界保健機関(WHO)は5月28日、公式ウェブサイトで、「リオ五輪の中止や開催地変更は、ジカ熱の国際的な流行に大きな変化をもたらさない」として、予定どおりの開催を容認する声明を発表した。