「馬は神経質ですから」
それにしても、競走馬の90%が胃潰瘍に罹っているというのは、ちょっとした驚きだ。史上最強世代の呼び声が高かった2016年の日本ダービーでは、2013年生まれのサラブレッド6913頭のうち、18頭が出走。「ダービー馬」となったマカヒキ号をはじめ、どの馬も胃潰瘍との闘いに勝っての晴れ舞台だったことになる。
一般的に、馬はデリケートな動物といわれるが、胃潰瘍の原因とされるストレスを、そんなに多くため込んでいるのだろうか――。
たしかに競走馬ともなると、毎日のように騎手を背負って厳しいトレーニングを積んでいる。競馬場などへの輸送も負担になる。食欲が落ちたり、住環境が変化したりして体調が優れないこともあるだろう。しかも、強い馬ほど自身で体調をコントロールする能力が高く、賢いとされる。
JRA競走馬総合研究所は、「人間と同じですよ。人間でもストレスが原因で胃潰瘍に罹る人は少なくないでしょう。食べ物が偏ると胃に負担がかかり、胃潰瘍になるリスクが高まりますが、それと同じようなことが馬にもあると考えています」と説明する。
さらに、馬の胃潰瘍の原因については「馬は神経質ですから」としたうえで、こう説明する。
「馬の胃はサッカーボールよりも少し小さいくらいの大きさなので、すぐにおなかをすかしますし、いつも草を食んでいます。その一方で、馬は音やモノの動きなどに敏感で、怖がりで気が小さいところがあります。胃液の分泌量などによって胃に変化が生じ、胃への負担が増すことで胃潰瘍を引き起こすとみています」
最近は内視鏡で検査できるようになったが、「トレーニングセンターなどの、ふだんの診療で使われることはまだ少ない」と、見た目で判断する状況が続いているようす。
実際の治療にも、人間に処方される薬が投与されるケースが少なくないようだが、投薬までには検査を繰り返す。「サラブレッドは品種改良を繰り返していますから、クスリに弱いんです。とくに飲み薬は慎重です」と、かなり神経を使っているようだ。