トヨタは「両刃の剣」を選んだのか 米「ウーバー」出資に動いた損得勘定?

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   トヨタ自動車が、米国のタクシー配車アプリ大手「ウーバーテクノロジーズ」に出資し、提携することになった。2016年5月24日(日本時間25日)に発表した。ウーバーはインターネットを駆使することにより米国で台頭する「シェアリング(共有)エコノミー」の旗手とされる新興企業だ。

   「旧来型製造業」の世界トップ企業であるトヨタと新興のウーバーとの提携の行方に世界が注目しているが、トヨタが「出資額は未定」とするなど、その狙いを含めて分からないことも多い。トヨタの損得勘定を探った。

  • 自家用車がタクシーの代わりを担う時代に(画像はイメージ)
    自家用車がタクシーの代わりを担う時代に(画像はイメージ)
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自家用車があれば「素人」が格安タクシー運転手に

   ウーバーの設立は2009年というから、まだスタートから10年も経っていない若い会社だ。もともとはスマートフォンを活用したハイヤーの配車サービスを展開していた。スマホにウーバーのアプリをダウンロードすることで、ウーバーと提携した個人営業を含むハイヤー運営会社のハイヤーをより簡単に呼ぶことができるサービスを提供していた。インターネットを用いてハイヤー運営会社と消費者の間をつないだわけだ。

   そんなウーバーが画期的に変質し、シェアリングエコノミーの代表選手となったのは2013年に「ライドシェア」と呼ぶサービスを始めてからだ。それまでは消費者の求めに応じてプロのドライバーを派遣するものだったが、ライドシェアの新しさは自家用車を持つ「素人」の派遣に道を開いたことだ。ドライビングに関して一定の条件を満たした「素人」が、連絡を受けた顧客のもとに赴くことで小遣い稼ぎができる一方、消費者にとっては一般的なタクシー(ハイヤー)を呼ぶよりも安い料金で移動できるメリットを享受できる――という一大サービス体系が構築された。

   このライドシェアの特徴の一つは、運転手と消費者双方が互いに評価されること。「態度が悪い客は次から乗せない」という従来のタクシー業界では考えられないことが実現される一方、ドライバーも厳しく評価されるので、一定の水準を満たさない者は淘汰されていく。ウーバーのサービスは無論、ベンチャースピリットを尊重する米国で受け入れられ、ウーバーは間髪入れずに世界に進出。現在は約70カ国でサービスを展開している。月4回以上顧客を移動させるドライバーは今や世界で100万人を超えるという。

「敵」といえども、世界の趨勢には逆らえない?

   自動車メーカーにとって、シェアリングエコノミーは基本的に敵だ。消費者がそれぞれ自動車を持って自分で運転して移動してくれればいいものを、ドライバーとしては素人の自家用車をみんなで共有しようというわけで、社会全体で必要な自動車の数は従来より少なくて済むのがシェアリングエコノミーの世界だからだ。

   しかし、だからと言って「シェアリングエコノミーに関わらないのでは世界の趨勢に置いて行かれる」(トヨタ幹部)との危機感がトヨタを突き動かしたようだ。同様の理由で歓迎できないはずのレンタカーにも自ら乗り出しているのと同じ理屈と考えればいいだろう。既にトヨタに先行して、米ゼネラルモーターズ(GM)や独フォルクスワーゲン(VW)といった世界大手が、ウーバーと同様のサービスを展開している新興企業と提携していることもトヨタの背中を押した。

   ウーバーは、客を乗せる自家用車について、あまり古い車を使うことは安全対策上、認めていない。トヨタが狙ったのはここだ。ドライバーが定期的に車を買い換える必要があるというややニッチな市場に入り込み、トヨタ車をリース販売することを画策する。確かにいち早くそこをおさえれば、一定の需要は確保できる。

   もっとも日本国内は規制の壁が高いうえに、「抵抗勢力」であるタクシー業界の反発が強く、ウーバーが自由に活動できる状況にない。京都府京丹後市で今年5月、試験的にウーバーの事業が始まったが、あくまでも「過疎地の特例」という位置づけで、運転手や車両の登録が必要で、乗車できる地域も限定されたものだ。いくら日本最強企業のトヨタと組むとはいえ、ウーバーが日本で本格的に事業を拡大するのは簡単ではなさそうだ。

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