企業がメールやファクスの宛先を間違えて送ることはまれにあるが、一国の役所がそういったミスを犯すのはきわめて珍しい。
産経新聞モスクワ支局にロシア外務省が産経を批判する内容の公式文書を誤って送ってしまい、産経のコラムで顛末をばらされるという珍事が起きた。
公式レターヘッド、公文書としての通し番号、報道官のサインも
支局での「珍体験」が綴られているのは、産経の6月2日付朝刊(東京本社版)に「拝啓 外務省報道官様」と題して掲載された外信コラム。ロシア外務省のザハロワ報道官に宛てた手紙の形式で、遠藤良介支局長が執筆した。
J-CASTニュースの取材に3日、国際電話で応じた遠藤支局長によると、人工知能やロボットについて取材しようと、国営の研究機関に取材を申し込んでいた(コラムでは「某国家機関」と表現)。だが、2週間ほど前に、その「某国家機関」宛ての「公式文書」が、なぜかロシア外務省からモスクワ支局に送られてきたという。
メールでもファクスでもなく、れっきとした封書の「公式文書」だ。外務省公式のレターヘッド、文書が発信された日付、公文書としての通し番号、報道官のサインもついていた。
コラムから引用すると、この「公式文書」には以下のようなことが書かれていたという。
「産経新聞は日本の主要活字メディアの中で、ナショナリズムの方向性によって特別の地位を占めている。ロシアに関する多くの記事は批判的、時に攻撃的であり、事実はしばしば歪曲(わいきょく)され、否定的な見地で伝えられる。最近の反露的な報道も踏まえ、同紙のインタビューには応じるべきでないと考える」
産経新聞の取材申し込みを受けた「某国家機関」が外務省に問い合わせ、その返答が間違って送られてきたようだ。
モスクワ支局長「ロシアの役所の劣化が本当に心配」
この文書の内容に対して、コラムでは
「この種の文書を作成することも、貴国では外務省の重要な業務なのでしょう。『事実を歪曲』などという完全な中傷には抗議しておきますが」
などと反論しているが、あくまで記事表現上の皮肉で、実際に抗議や「間違って文書が届いた」といった指摘はしていない。コラムに
「露外務省には平素よりたいへんお世話になっており、事を荒立てるつもりは毛頭ありません」
とある部分が、実は本音なのだそうだ。逆にロシア外務省からも
「間違って送ったので破棄してほしい」
などの連絡はないという。
コラムでは
「何より心配なのは、大国ロシアの外交を担う外務省が、公式文書を誤って発送するという初歩的ミスを犯した事実です」
とも皮肉っている。遠藤支局長は「役所の劣化が本当に心配」と、改めて話していた。
産経新聞の海外の取材拠点をめぐっては、07年に中国総局の記者が記者証の更新を一時拒否されたり、15年にはソウル支局長(当時)が朴槿恵(パク・クネ)大統領への名誉毀損(きそん)の罪で在宅起訴され=後に無罪判決=一時的に出国できなくなったりした。