【主治医が見つかる診療所】(テレビ東京)2016年5月16日放送
「肩こりのウラに潜む危険な病気の早期発見法」
老若男女、多くの人が悩まされている「肩こり」。もしかすると、命にかかわる危険な病気のサインかもしれない。
キーワードは「左右のこりの違い」だ。
左肩のこりは心疾患のサイン
都内に住む片山勝夫さん(72)は、1991年、48歳の時に心筋梗塞と診断された。
当時そば屋を経営していた片山さんが、最初に異変を感じたのは診断の半年前だった。右肩は何ともないのに、左肩がズキンズキンと痛むようになった。
片山さん「何でこっち(左)だけなんだろう。職業病かなと思いました。出前の重みで肩が圧迫されて痛いのかなと」
その痛みは24時間続き、マッサージしても治らず、余計に痛くなった。
そして最初に肩こりを感じてから約半年後のある日、仕事中に息苦しく、異常に汗が出た。喉に何かが詰まったような苦しさで、1度帰宅して寝ようとしても苦しくて寝ていられない。我慢できず病院へ行くと、心筋梗塞を発症していたことがわかった。
緊急入院し、血管の詰まりかけた部分を網状の筒(ステント)でひろげて血流を回復させる「冠動脈カテーテル治療」がほどこされ、一命を取り留めた。
田中正博さん(仮名、54)も、心臓の疾患が左肩のこりを引き起こしていた一人だ。
最初の異変は30代半ば、営業マンとして忙しい日々を送っていた時だった。
田中さん「左側の肩が張り、肩甲骨のまわりがこるというか、張るという感じ。きつくつままれたような、足がつるようで、単純に疲れかと思っていた。これが肩こりなのかなと」
痛みは月1回感じる程度だったため放置していたが、4年後、そのこりに変化が。肩だけでなく、左の上半身が骨折した時のようにひどく痛み、多い時には週1回ほどの頻度になった。
さらに左側の歯からあごにかけて、歯が全て抜けてしまうのではと思うほどの痛みと、眼球が前に出てしまうのではと感じるくらいの頭痛もともなった。
最初に異変を感じてから10年後のある朝、左上半身の激痛が10分以上続いた。息ができず、自力で立ち上がることもできないほどで、救急車で病院へ搬送。診断は「狭心症」だった。
狭心症は心臓に血液を送る血管がせまくなり、胸の痛みや圧迫感などが出る病気で、進行すると心筋梗塞を発症、突然死の可能性もある。
田中さんが感じていた痛みは心臓の異常から来るものだったと医師から告げられ、投薬治療で症状は改善した。
階段を上ったり運動したりした時の「こり」は危険
なぜ、心臓の疾患が肩こりにつながるのか。
体に張り巡らされた神経は脳につながっている。体のどこかに異常があると、痛みとして脳に伝わる。神経は脳に近付くほど太い束状になっていて、異常がある場所から送られる痛みの信号を、同じ束につながっている異常のない場所からの信号と勘違いしてしまうのだ。
東京ハートセンター・細川丈志副院長「胸の痛みを感じる神経と、肩や腕の痛みを感じる神経、特に左肩の神経は、非常に近いところを走行している。これによって混線してしまって、本来は胸が痛いはずなのに、脳の方が『肩と腕が痛い』と錯覚してしまう」
危険なのはどんなタイプの肩こりなのか。
細川副院長「もんでもマッサージをしても改善しないものや、階段をのぼった後など、運動した時にこるものは非常に危険」
そしがや大蔵クリニック・中山久德院長「通常の肩こりは、血流障害によって肩が硬直した状態。押すと「痛気持ちいい」ことが多い。危険なものは、もんだ時気持ちよさよりも痛みが強くなる」
日本薬科大学・丁宗鐵学長「肩全体がこっていなくても、肩井(けんせい、首の下と肩先を結んだ真ん中)のツボを押した時に違和感がある時は心臓の異常を疑ってみてください。循環器の専門医に相談すると安心です」
右肩のこりにも、危険な病気のサインが隠れていることがある。
主婦の内海昭子さん(仮名、73)は、1999年にある病気が発覚した。
最初の異変は43歳の時だった。事務の仕事を始めたばかりの頃、右肩の少し下が重いように感じていた。
しかし就職後数年で総務部長に昇進するほど仕事にまい進していた内海さん。右肩のこりは悪化し続けたが、つい放置してしまっていた。
こりを感じ始めて約14年、56歳の時に受けた健康診断で、C型肝炎が見つかった。
病気は発覚したが肩こりは改善せず、頻繁に指圧へ通い、指圧代だけで年間21万円にのぼることもあった。
しかし2年前、医師から勧められた新しい薬を使用したところC型肝炎が改善。同時に肩の痛みもとれ、今では何の異常も感じないという。
肝臓の異常が肩こりにつながったのはなぜか。
肝臓の中には神経が走っていないが、肝臓のすぐ上には横隔膜があり、横隔膜は肩の周りの筋肉とつながっている。体の右側にある肝臓に炎症が起こると横隔膜が刺激され、右肩にこりや痛みを感じることがある。
札幌禎心会病院脳疾患研究所・上山博康所長「肩こりだけではなくて、背中など局所の痛みも危険。違和感のある痛みを背中や肩に感じた時が危険だととらえた方がいいかもしれません」
ナグモクリニック・南雲吉則総院長「肝炎を起こしていると非常に体の具合が悪くなる。全身のだるさや熱っぽさをともなう痛みは危険」
「胆石」も右肩こりの原因に
ゲストのTKO・木本武宏(45)も、40歳を過ぎてから右肩にひどいこりを感じ始めたという。同時期に、人間ドックで胆石が見つかっていた。
胆石とは、胆のうの中にできる結石のこと。胆のうは肝臓と十二指腸の間にある小さな臓器で、肝臓から食べ物を消化するために分泌される胆汁をためておく場所だ。この胆汁がかたまると胆石となる。加齢、肥満、過度の飲酒、運動不足、コレステロールのとりすぎなどが原因となり、過激なダイエットでもリスクが高まる。
症状が出ない人も多いが、胆石が胆のうの出口に詰まると「胆石発作」を発症し、「腹痛の中の3大激痛」の1つといわれる「胆のう炎」になることも。胆のう炎を繰り返していると、早期発見が難しく比較的死亡率が高い「胆のうがん」のリスクも上昇する。
胆石と右肩のこりにはどんな関係があるのか。
獨協医科大学医学部・森一博特任教授「胆石が胆のうの出口に引っかかったままだと、胆のうがけいれんしてくるが、ポロッと中に戻ることもある。胆石が出たり戻ったりを繰り返すと、軽い発作のような症状が起こり、右肩の痛みに波及する可能性がある」
番組で再検査したところ、発見当時8.8ミリだった木本の胆石は、11ミリに大きくなっていた。
秋津医院・秋津壽男院長「大きさよりも形が問題。少し表面がイガイガ、でこぼこしている。新しい胆石の芽が育ちつつある。表面の出っ張りがポロポロはがれ、あちこちに詰まる可能性がある」
肉体改造ジム「RIZAP(ライザップ)」に通いダイエットに成功した木本。一見健康そうに見えるが、なぜ胆石が育ってしまったのか。
秋津院長「ダイエットは食事を抜いたり量を減らしたりする。胆のうは油物を消化するために胆汁をキープする場所。天ぷらを食べると胆汁をギュッとしぼり出して消化する。食事を抜くと、たまった胆汁が使い道がなくて待っている。使われなかった胆汁は胆石にどんどんくっつく。食事抜きも胆のうには良くない。今のいい体型を維持するために、食事抜きではなく適当な量の食事をきっちり続けていくような食生活にした方が、胆石の育つペースはゆっくりになる」
木本「トレーナーの方には『ちゃんと食べて下さい』と言われている。僕が勝手にリバウンドが怖くて食事を抜いてしまう。無茶なことをやっているかも」
胆石が見つかったらすぐに治療すべきなのか。
秋津院長「胆石はがんとは直接関係ない。症状の出ない胆石は『サイレントストーン』と言って、そっと置いておいて死ぬまで放っておけと言われている」
上山所長「現状でポンコツでも走れていたら、これ以上悪いことをしなければ走り続けることができる。さらに部品が壊れると、本当に廃車になってしまう。悪いことをやめるのが、ポンコツ車が完走するためには必要」
木本は現時点では手術の必要はなし。適度なダイエットを続けながら経過観察すべしとの結論だった。
心臓、肝臓、胆のうの病気の他にも、すい炎、すい臓がん、十二指腸潰瘍、大動脈かい離、肺がん、せき髄の病気などで、肩こりがサインになることがある。異変を感じたら病院に相談するのがよさそうだ。