だからどうした?――そんな一部読者の怒りの声も聞こえてきそうだが、裁判傍聴席の「高倍率」抽選にJ-CASTニュース記者が当たった。東京地裁であった元プロ野球選手、清原和博被告の判決公判。初公判の時は、20席をめぐり3769人(約188倍)が詰めかけた。今回の倍率は、果たして...。
注目を集める裁判では、マスコミ各社が、記者クラブ用の席以外も確保しようと、大人数のアルバイトを動員することで知られる。そんな割り当て席のないJ-CASTニュースでは、「ダメ元で」と記者1人だけを派遣した(アルバイト投入はゼロ)。主目的は、傍聴席券を求める人々の様子を取材すること(のはず)だった。行列に並んだ男性記者(20代)が、現地の様子をリポートする。
「PL時代からのファンなんです」
覚せい剤取締法違反の罪に問われた清原被告の裁判が始まる予定は、2016年5月31日13時30分と知らされていた。地裁ウェブサイトによると、整理券の受け渡し場所は日比谷公園の祝田門付近だった。公園内では裁判所の係員が、赤いコーンとビニールテープで列のコースを作っていた。記者が到着した朝8時15分頃、まだ整理券を待つ人は一人もいなかった。5分ほど経つと1人、2人とコーンの内側に並び始める。記者はまだ、列からはずれて取材をしていた。
最初に並んだ50代の男性に話を聞くと、
「PL時代からのファンなんです。自分も高校野球をやっていたが清原は僕の1学年下だった。32年間応援し続けています。やってしまったことは仕方ないが、将来はプロ野球の世界に戻ってきてほしい」
と話した。徐々に人が増え始め、9時前には30人ほどの列となった。ランニングウェアを着てサングラスをかけている大阪在住の40代女性は、バリスタの試験を受けるために2日前に東京へ来た。
「昨日、日比谷周辺の情報を調べていたら、清原さんの裁判があると知って。西宮出身で昔からよく見に行っていたので、来ることにした。清原さんは『子どもにやさしい人』という印象。うちの息子が幼い頃に握手を求めたら、喜んで握手してくれた。彼の地元の岸和田では、愛されていると思いますよ」
9時30分近くになると、報道関係者の数も増えてきた。ビデオカメラを持つ人や、傍聴希望者にマイクを向ける人、脚立に乗って写真を撮る人...。騒々しい雰囲気の中、9時30分を迎える。傍聴希望者は整理券を配布されるテントへ向かって歩き出した。
将来は「指導者にはなってほしくない」
4つのテントには、係員が5、6人ずつ待機していた。傍聴希望者は、番号の書かれたリストバンド状でピンクの整理券を右手首に巻いてもらう。「本整理券をはずした場合は、当選番号であっても無効となります」という注意書き付きだ。テントの先では、多くの報道関係者が傍聴希望者を待ち構えていた。
記者は、整理券を巻いてもらった直後の一人に話を聞いた。30代の女性で、清原被告に対し特別な思い入れがある訳ではないらしい。
「この1か月くらいずっと毎日、刑事事件を傍聴しに来ているんです。今年11歳になる息子が中学生くらいになった時にグレてほしくないから。犯罪者の方がどういう気持ちなのか子どもと考えるために、主に殺人事件、特に家族間のものを見に来ています」
清原被告の将来については
「指導者にはなってほしくない。危ない人脈を断ち切れなければ一緒」
と語っていた。
倍率81倍に当選しました
整理券の配布が締め切られたのは11時。当選番号は、日比谷公園の霞門、桜門、日比谷門と西幸門付近で11時30分に掲示される。記者は、霞ヶ関駅と東京地裁に最も近い霞門へ向かい、11時20分から発表を待ち続けた。
25分頃から、発表を待つホワイトボードの前には2、30人ほどの人だかりができていた。カメラやスマホを手に持っている人の姿もあり、記者もその1人だった。
「当たるはずないけど、番号の写真くらいは撮っておくか」
何の役に立つか分からないが、初めて裁判傍聴に挑戦した記念だ。ファインダーをのぞいてホワイトボードが裏向けられるのをじっと待つ。
11時30分、係員たちはボードを裏返し1枚の紙を公開した。書かれている数字は、20個ほどに過ぎない(当たり前だが)。
「うーんっと、『08077』は.........え?」
最初は自分の目を疑った。リストバンドの番号は「08077」で、ボードの番号は「8077」。記者の番号がボードに書かれているではないか!
「え?え?えーーー!」
思わずボードに近づきすぎてしまい、「離れてください」と警備員に制止された。
「もしかして『08077』と『8077』は違うんじゃ...」
「すみません」と警備員に尋ねると、返ってきた言葉は「当選してるね。すごいな」。
何度見返しても、記者が当選した事実は変わらないようだ。深呼吸して興奮を抑えながら、会社に電話した。
「え!当たったって!?」
いつもは穏やかな先輩も、この時ばかりは電話越しに大きな声を上げた。
「今日は原稿がうまくまとまらず、少々下手くそでも、怒られない気がする。たぶん。きっと」
そんな予感を胸に、次の仕事に取り掛かった。(法廷内の様子は別記事あり)