東京・田園調布や成城、兵庫・芦屋といった閑静な高級住宅街に、コンビニエンスストアが出店できる見通しになった。
こうした一戸建て住宅が立ち並ぶ住宅街は「第1種低層住居専用地域」にあたり、現行では商店などの建築が原則禁止されている。コンビニ業界をまとめる日本フランチャイズチェーン協会などが、建築制限の緩和を求めていた。
高齢者の61%が「コンビニ難民」
建築基準法では、「第1種低層住居専用地域」について、居住用の低層住宅や学校などの公共施設、小規模の住宅兼店舗などに用途を制限している。一戸建て住宅などが立ち並ぶ、いわゆる「閑静な住宅街」がそれにあたる。
「戸建て街 コンビニ出店解禁」の見出しで報じた2016年5月29日付の読売新聞によると、政府が近所に商店がなく日ごろの買い物が困難な高齢者などの「買い物弱者」対策として、「第1種低層住居専用地域」でのコンビニエンスストアの出店を条件付きで許可できるよう、規制を緩和する方針で、近く閣議決定する規制改革実施計画に盛り込むという。
少子高齢化に伴う人口の減少で、近くの大型スーパーマーケットなどが撤退したり、商店街がなくなってしまったりしている住宅街は少なくない。その一方、セブン‐イレブンやローソン、ファミリーマート、サークルKサンクスをはじめ、全国には5万5000店を超えるコンビニがあるものの、それでも日常生活で買い物に不自由している高齢者は少なくない。
三井住友トラスト基礎研究所の竹本遼太副主任研究員によると、コンビニからの徒歩圏(半径300メートル以内)に住む65歳以上の高齢者の割合を推計したところ、東京23区では高齢者の86%が最寄りのコンビニから300メートル圏内に住んでいるが、全国平均では高齢者の徒歩圏カバー率は39%に過ぎない。つまり高齢者の61%が、徒歩でコンビニに行くのが困難な「コンビニ難民」だと指摘。郊外部や地方ほど、コンビニまで徒歩圏に住む高齢者の割合が低いという。
日本フランチャイズチェーン協会は、「地方都市などでは、近くのスーパーが閉店するなどで買い物が不便になっている地域があります。その一方、高齢化が進んで最寄りの店まで行きづらくもなっています。そういった地域の住宅街で、コンビニが出店できるようになれば、利便性も高まると考えています」と説明する。
「条件付き」とはいえ、一戸建て住宅が立ち並ぶ、閑静な住宅街にもコンビニが出店できるようになるわけだ。
住民の「理解を得ること」が出店の条件
こうしたコンビニエンスストアの出店規制の緩和に、日本フランチャイズチェーン協会は「まずは第一歩といったところ」という。というのも、出店するには周辺住民の理解が得られることが「条件」なので、現実的には「なかなか難しい」とみている。
同協会は、「たとえば、徒歩5分圏内であっても買い物に不便と感じる人もいれば、そうでない人もいます。ビジネス街などは徒歩10分圏内に複数のコンビニがあっても、『もっと近くにあってほしい』という声があるほど。その一方で、静かに暮らせる環境を求めている人は少なくありませんから、住まいのすぐ近くにコンビニができることに反対する人もいるでしょう」と話す。周辺住民の理解が得られず、コンビニチェーンが出店を尻込みする可能性は否定できない。
また、「住民の声」を誰が集約して、どこまでの住民が対象なのかといった詳細がわからないことや、そもそもコンビニの採算がとれるかどうかもある。あるコンビニ大手は「(地方都市では)高齢者の買い物ニーズにあわせた品揃えで、しかも生鮮食品から日用品までを扱うとなると、品数が増えて商品管理に手間がかかる。そうであれば配達を充実したほうが、採算がとれるかもしれない」(コンビニ大手)との判断もある。
そうしたなか、コンビニの出店規制の緩和にインターネットには賛否両論の声が寄せられる。
「24時間営業のコンビニが近所にあるのは防犯の観点からもいいことだと思う。最近は防犯力メラなどの犯罪抑止効果が充実しているし、住民は安心できるはず」
「民家が密接していないとか、時間を決めて営業するとかすれば、迷惑にならないじゃないかな」
「駅の近くにしかコンビニもスーパーもないのでちょっと困っていたけど、そういう規制があったんですね。近くあれば、お年寄りもラクに買い物に行けるでしょう」
といった「歓迎」の声がある半面、
「コンビニって、飽和状態じゃなかったの?」
「コンビニができると夜中に若者がたむろして大声出しまくりだよwww」
「便利だけど、はっきり言って自分の家の隣にできるのはマジ勘弁してほしい。治安に住環境とか。多くの住民はいろんな意味で迷惑を被ると思う」
などと、「反対」の声も少なくない。