自民党の若手議員から「厚生労働省分割論」が飛び出し、波紋を呼んでいる。巨大すぎるから2~3つに分割するか、大臣を複数にしようという提言。分割論自体は過去にも議論になっているので、決して目新しいものではない。
ただ、提言の中心人物が小泉進次郎氏とあって、大手紙もこぞって取り上げる騒ぎになっている。夏の参院選の公約に盛り込もうという話は、族議員や厚労省の抵抗で見送られたが、いずれ、本格的な議論になる可能性もある。
「1人の大臣、1つの役所だけで担当することは困難になりつつある」
提言をまとめたのは、小泉氏ら若手議員で作る「2020年以降の経済財政構想小委員会」。具体的には、(1)年金、医療、介護を担う「社会保障」、(2)少子化対策などの「子ども子育て」、(3)雇用や女性支援の「国民生活」――の3分割案と、「社会保障」と「国民生活」に再編する2分割案を提示。また、分割しない場合も厚労省に大臣2人を配置し、業務分担させる案も示した。5月11日にまとめ、12日に稲田朋美政調会長に提言書を渡し、参院選公約に盛り込むよう検討を求めた。
分割論の根底にあるのは、厚労省が社会保障や雇用対策、子育て支援、女性の社会進出など広範な重要業務を抱えることから、「1人の大臣、1つの役所だけで担当することは困難になりつつある」という現状認識だ。
数字で見てみよう。厚労省の予算規模は2016年度当初予算で約32兆円に達し、国債費を除く一般会計歳出の4割以上を占める。通常国会への提出法案数は2014年からの3年で、経済産業省主管の17本、国土交通省主管の24本に対し、厚労省主管は27本に上り、厚労相の国会答弁回数も、2015年の通常国会で2934回と、農相の1037回や国交相の687回などを大幅に上回る。一方、職員数は、2015年7月1日時点で3473人と、農林水産省(3568人)や国交省(4568人)を下回る。
具体的な「事件」もあった。2014年5月の参院本会議では所管法案の趣旨説明の際、厚労省が配布した資料に誤りがあり、野党の反発で本会議が流れた。もっとも、これは、法案のたたき台をまとめていく過程で、古い記述を消し忘れたミスだったことから、「人員不足が原因」(厚労省関係者)との声も出た。今回の分割提言についても、塩崎恭久厚労相は「膨大な業務量を踏まえると人員を増やさない限り処理しきれない」と、まず人員増を注文し、分割論には距離を置いている。
厚労省は2001年、省庁再編で旧厚生省と旧労働省が合併して誕生したが、年金記録問題などで分割論が常について回る。特に2009年には麻生太郎首相(当時、現財務相)が社会保障省と国民生活省に再編する2分割案に言及、舛添要一厚労相(当時、現東京都知事)は3分割案を唱えるなどして議論になった。この時は、自民党内の根回しがない中で、反発の声が広がり、立ち消えになった。
「やるなら霞が関全体の中で」と筋論も
今回、政府サイドでなく自民党内から声が上がったのが特徴で、特に、小泉氏というスターが中心メンバーということでマスコミの注目を集めた面がありそうだ。
最初に大きく報じたのが読売で、16年4月28日付朝刊4面(政治面)のトップ記事で、予算のグラフなども織り込んで伝えた。実は、2009年の議論は、麻生内閣が設けていた「安心社会実現会議」で、渡辺恒雄・読売新聞グループ本社会長・主筆(当時)が、「医療・介護と雇用・年金を所管する2省に分割すべき」と提言し、麻生首相が飛びついたという経緯があり、今回の読売の報道も、そうした「過去」を踏まえたものとの見方もある。
読売の報道はさておき、各紙も、小委員会の提言発表を受けて、5月12~13日付朝刊で報じたが、「自民・小泉氏ら若手が提言」(日経)など、「小泉氏」に大きなニュース性を持たせた報道ぶりが目立った。永田町や霞が関でも、小泉氏の父、純一郎元首相が、郵政民営化問題で「自民党をぶっ壊す」と打ち上げ、最後は反対議員に「刺客」候補まで立てた連想で、いずれ厚労省分割が大きな政治問題になるのでは、といった見方も出ているといい、産経のコラム「政界徒然草」は「多くの議員が、人気がある小泉氏とのバトルを避け、だんまりを決め込んでいるのが実情」と書いている(5月27日)。
ただ、自民党内では「やるなら霞が関全体の中で考えるべきだ」(ベテラン議員)といった筋論もあり、参院選公約では分割案が抜け落ちて「省庁再々編を検討する」との文言に置き換わり、実施時期も明示されない見通しになった。
今回は時間切れといった格好だが、若手の提言で厚労省の在り方に問題があることが改めて認識されたのも確か。「将来的に、厚労省分割が政局の大きなテ-マになる可能性もあるし、霞が関再々編の議論に進むきっかけになるかもしれない」(全国紙政治部デスク)と言えそうだ。