安倍晋三首相は、2017年4月に予定されていた消費税率10%への引き上げを、19年10月へ2年半延期する意向を政権幹部に伝えたと、各種メディアが報じた。本当に延期となれば2度目の先送りとなる。
一方、20年8月には東京五輪が控えている。過去の例を見ると、五輪終了後は開催国の景気が下向きになる傾向にあり、識者の中には「その前年の秋に消費増税に踏み切れるのか?」と、再々延期の可能性に触れる向きも出ている。
五輪後はGDP成長率が低下する傾向
10%への引き上げは、当初15年10月に予定されていたが、個人消費の伸び悩みなどからデフレ脱却に至っていないとして14年11月、1年半先送りされた。その後、首相は「再延期はない」と断言し、景気の悪化次第で増税時期を見送る「景気弾力条項」も削除。「リーマン・ショックや大震災級の事態にならない限り、17年4月に必ず引き上げる」と繰り返してきた。
ところが、首相はG7首脳会議(伊勢志摩サミット)終了後の16年5月28日、麻生太郎副総理兼財務相、菅義偉官房長官、自民党の谷垣禎一幹事長らと会談し、10%への消費増税を19年10月へ再延期する意向を伝えた。ただ、麻生氏は財政健全化目標達成のためにも予定通りの増税を求めており、延期に難色を示した。首相は引き続き協議し、国会会期末の6月1日にも正式発表したい考えだという。5月29日付朝刊で全国紙各紙が報じるなどした。
もし正式決定に至れば、2度目の延期。ただ、19年10月となると、東京五輪開催まで1年を切っている。この時期をどう見るか。
五輪後は景気が悪化しやすい。IMFが発表している実質GDP(国内総生産)成長率を見ると、五輪開催国の開催前年・当年・後年は、中国(08年北京大会)が14.2%・9.6%・9.2%、ギリシャ(04年アテネ大会)は5.9%・4.4%・2.3%、オーストラリア(00年シドニー大会)は5.0%・3.8%・1.9%、と低下している。開催当年もリーマン・ショックの影響が残っていたため後年微増した英国(10年ロンドン大会)や、米国(1996年アトランタ大会)の例外を除けば、88年のソウル大会以降の夏季五輪開催国は、翌年に成長率が落ちた。五輪に向け、前倒しで企業や国が集中的に投資し、国民が消費を増やすため、反動が出るのが一因とされる。
五輪景気で「増税の反動減を緩和」の見方も
慶応大学総合政策学部の松井孝治教授は16年5月28日、自身のツイッターで、
「20年夏の東京オリンピック後には景気失速が予想される中でその前年の秋に消費増税に踏み切れるのか?かくして罪深い先送りの連鎖が発生。安倍首相は消費増税を封印した宰相として歴史に名を刻むのか」
と、「再々延期」も懸念される状況になることに言及した。
一方、「五輪景気」に期待する向きもある。16年5月28日の読売新聞朝刊によると、消費増税再延期について、自民党内からも反対意見が出ているとしながら、首相周辺では「20年の東京五輪の好景気で増税の反動減を緩和できる」と前向きな見方が出ている。
日本銀行調査統計局が15年12月に発表した資料「2020年東京オリンピックの経済効果」では、「オリンピック開催後もGDPの水準は低下せず、経済を持続的に押し上げる効果がある」としている。五輪後は投資の反動減があるものの、訪日客の増加や個人消費の増加が続くとみているためだ。
ネット上では、消費増税時期と東京五輪との関係について
「東京オリンピック後の五輪不況とダブルパンチが確実」
「五輪関連消費でガッツリ税収確保を狙ったけど実際は五輪後の景気悪化見越して消費税上げられず...ってシナリオ」
「五輪特需に期待しての『2年半』だとは思う」
と両論出ている。