熊本地震で大きな被害が出なかったにもかかわらず、観光客が激減した熊本県八代市の日奈久温泉。震源としてメディアで盛んに取り上げられた「日奈久断層帯」と名前が同じため、J-CASTニュース2016年5月9日付記事では、温泉関係者が「風評被害というものを実感せざるを得ない」と嘆いていた。
電話取材した翌週、記者は日奈久温泉にある創業100年以上の老舗旅館、金波楼を直接訪ねた。
利用者の多くを占める熊本県民が被災した
日奈久温泉は熊本市中心部から車で1時間ほどの距離だ。鉄道なら、最寄り駅から徒歩10分程度とアクセスが良い。日奈久温泉の入口には俳人・種田山頭火の碑も建っている。だが震災後は、客足がパッタリ止まってしまった。
「八代では本震の後の4月19日、震度5強の地震が起きました。当館ではこの影響が大きかったのです」
金波楼館主の松本寛三さんはこう明かした。一連の地震で、館内では壁に亀裂が入ったり、剥げ落ちたりしたが、建物自体は致命的な被害を免れた。温泉全体では、湯の供給も問題なかった。しばらくの間は復旧工事の作業員の受け入れを優先していたが、記者が訪れた5月中旬には一般客の受け入れを再開していた。
だが、宿泊の予約は伸びない。「日奈久」という地名の影響もあるが、利用者の多くを占める地元・熊本県の人が大勢被災して観光どころではない現状もある。金波楼では、今も館内には壁のひび割れが残っているが、営業上に大きな支障はない。建物に地震の「傷跡」があるのを承知で宿泊する客がわずかでも戻ってきたのはありがたいが、今後1か月、2か月先も客足が途絶えたままだったら――。こんな不安を、松本さんは抱えている。
「とにかく『日奈久温泉は元気』とアピールするしかありません。いつでもお客様を迎えられますよと、私たちが発信していくべきだと思います」
そのツールとして、インターネットへの期待は大きい。金波楼では震災前から、公式サイトとブログを運用してきた。かつて、宿泊客は「熊本と福岡で8割ほどを占めていた」が、ネットでの広報活動が奏功して関東や関西からの客も増えてきたという。電話での予約の際に「サイトを見ました」としばしば言われるようになった。ネットの発信力を、松本さんは重視している。