赤ちゃんの病気の中で最も恐ろしいといわれる乳幼児突然死症候群(SIDS)。原因不明なだけに親の心配はひとしおだが、乳児に「おくるみ」を使って寝かせると危険が増すという研究が発表された。
米バージニア大学の小児科チームが研究をまとめ、2016年5月9日付米小児科学誌「Pediatrics」(電子版)に発表した。
男児・早産児・低出生体重児・人工授乳児に多く発症
厚生労働省によると、乳幼児突然死症候群(SIDS)は、それまで元気だった赤ちゃんが、何らかの事故や異物がのどに詰まったりする窒息ではなく、眠っている間に突然死亡してしまう病気だ。出生児の6000~7000人に1人が発症すると推定されており、生後2か月から6か月に多い。
前兆のようなものが一切ないのが特徴だ。原因は不明だが、同省研究班によると、男児・早産児・低出生体重児・人工授乳児に多く発症する。時間帯では冬の寒い時期や早朝から午前中にかけて起こりやすい。また、うつぶせ寝の状態で発見されることが多く、両親が喫煙している乳児に多い傾向も明らかになっている。そこで、同省では、(1)うつぶせ寝はさける(2)タバコはやめる(3)できるだけ母乳で育てる、ことの3つを推奨している。
「おくるみ」とは乳児を寝かせる寝具の1つで、通常、頭を出して腕を中に入れた状態で毛布や布で乳児をくるむ。英語では「swaddling」(スワドリング)と呼ばれ、かなりきつく縛るものから、ゆるく包むものまで世界中に様々なタイプがある。子宮壁に包まれていた胎内の環境に近いため、赤ちゃんが安心して眠ることができるとして推奨する育児サイトも少なくない。また、寝返りできないので、うつぶせ寝になることがなく、SIDSを防ぐことにもなると考える専門家もいる。
寝返りできるようになったら使っちゃダメ
研究チームは、過去に発表された米国や英国、豪州など4件の論文を分析、SIDSで死亡した乳児760人のケースを一人ひとり検証し、そうでない乳児1759人と比較した。その結果、「おくるみ」を使っていた乳児は、SIDSで死亡するリスクが使わない乳児に比べ50~60%高かった。また、「おくるみ」を使ってうつ伏せに寝かせると、死亡リスクは使わない乳児に比べ13倍にも達した。これらのリスクは、乳児が自分で寝返りできるようになる生後6か月に近づくにつれて上昇した。
研究チームのレイチェル・ムーン博士は「今回の研究では、おくるみを使うとなぜSIDSのリスクが高まるのか、直接的な因果関係は証明できませんでした。各国によって、おくるみの定義が違うことなどが研究の限界になりました。しかし、子どもが寝返りできるようになったら、おくるみは使ってはならないこと、そして、うつぶせや横向きに寝かせてはいけないことは確かです」と語っている。また、論文にレビュー(論評)を付けた別の専門家も「睡眠時のおくるみはすべて推奨しない」とコメントしている。
遺族や医療関係者らでつくるNPO法人「SIDS家族の会」のウェブサイトを見ると、同会のメディカルアドバイザーである東京都保健医療公社多摩北部医療センター小児科の小保内敏雅医師が、「おくるみ」について、こう注意を呼びかけている(要約抜粋)。
「おくるみ中に突然死したヨーロッパの22症例の報告では、15名がうつ伏せで発見されました。おくるみは、寝返りを抑制すると思われていても、寝返りをしてしまうことがあります。寝返った場合、腕がきつくおおわれているため、首を回転させて窒息を防ぐ姿勢をとることができず、むしろ危険が増してしまうでしょう」
「また、1名は非常に体温が高い状態で発見されました。(おくるみによる)温め過ぎが突然死の誘因と考えられます。おくるみを使う時は布の材質を慎重に選ぶことが必要です。さらに、2名はやわらかいベッドに寝かされており、これに伴う窒息と診断されています。これらの報告から、おくるみはすべてにおいて安全というわけではありません。おくるみに慣れていない乳児には当初から危険が伴うことを認識し、十分観察できる状態で始めることが肝心です」