米国のオバマ大統領が2016年5月27日夕方、現職の米大統領としては初めて広島市を訪問し、平和記念公園で献花した。直後の演説では、直接的な謝罪の言葉は避けながらも、原爆の被害に向き合う言葉を繰り返した。演説に立ち会った被爆者とも笑顔で言葉を交わしたり抱き合ったりして「和解」を強く演出した。
異例だったのが、犠牲者についてのくだりで「韓国・朝鮮人」(Koreans)「米国人」についても言及したことだ。韓国や米国の世論にも配慮したとみられる。
「韓国・朝鮮人」「米国人」にも言及
オバマ大統領は約50分にわたって平和記念公園に滞在。安倍晋三首相や岸田文雄外相らの出迎えを受け、最初に公園内の広島平和記念資料館を視察。献花に続いて演説に臨んだ。約17分にわたる演説では、
「8月6日の苦しみは消えることはない」
などと述べ、広島訪問の目的を
「恐ろしい力がそれほど遠くない過去に解き放たれたことを深く考えるため」
「10万人を超える日本の男性、女性、子どもたち、何千人もの朝鮮人、数十人の米国人を含む死者を悼むため」
と説明した。
原爆投下当時、朝鮮半島から徴用された人や、少数の米国人捕虜も広島にいたと考えられている。これに関連して、韓国では5月26日に被爆者団体が記者会見を開き、すべての被爆者に対する謝罪を要求。公園内にある「韓国人原爆犠牲者慰霊碑」をめぐる立場を表明しなかったことに対して失望感を表明した。
一方、米国ではオバマ氏の広島訪問に元米兵捕虜が立ち会う計画が浮上していたものの、直前になって見送られることになった。この計画には、日本の加害者としての側面も強調する狙いがあっただけに、退役軍人関連団体が失望感を表明している。
オバマ大統領は、こういった経緯に配慮した可能性もある。
『共有された責任』(shared responsibility)を強調
これに加えて、オバマ大統領は
「歴史の観点から直視する『共有された責任』(shared responsibility)がある。こういった苦しみを繰り返さないために、我々がどのように(核兵器使用とは)違ったことができるか問わなければならない」
とも発言。核保有国が共同で「核なき世界」を目指す努力をすべきだとした。
CNNやBBCをはじめとする米欧メディアは、この「共有された責任」(shared responsibility)というキーワードを強調して速報していた。
また、演説直後にオバマ大統領と言葉を交わした日本原水爆被害者団体協議会(被団協)代表委員の坪井直(つぼい・すなお)さん(91)は、その後のTBSとのインタビューで、
「我々は恨みや何かは関係ありません。だから、私たちはオバマさんが来られたことは大歓迎します、感謝しております」
とオバマ大統領に伝え、核廃絶に向けた継続的な取り組みを求めたという。これに対して、オバマ大統領は、
「人間の、人類の幸せをどうしたらなれるのかと、そういうことをとくとくと説いた」
という。歴史的な視点で「核なき世界」を強調してきたオバマ大統領が、やはり「共有された責任」という考えで、自らの広島訪問を意義付けようとしたようだ。