がれきの中から産声を上げる赤ちゃんに「命は尊いな」
だが、不妊治療の経験をつづった本の執筆には迷いがあったと明かす。
「すべての人に男性不妊のことを知ってもらって、検査や治療を受けてもらいたい。でも、どんなに治療を受けても子どもができない夫婦もいる。彼らのことを思うと、成功体験を書くのはためらいがあった」
そんなユカイさんの転機となったのは、2011年3月の東日本大震災。ある光景をテレビで見た。
「ニュースで、がれきの中から産声を上げる赤ちゃんの映像が流れたんだ。それを見た時、逆に勇気づけられた。命は尊いなって。どうしようか悩んでいた気持ちが吹っ切れて、本を出す決心がついた」
出版されたのが『タネナシ。』(2011年、講談社)。自身の不妊の経験を著した男性の著名人はほとんどいない。
「マスコミにも出る自分だから、より多くの人に発信していける。それは俺の使命だと思ってる。子どものことって、誰にとっても身近な話だからね。実体験も伝えていけば、関心をもってもらえると思う」
世の中に何を訴えたいか。最後に尋ねた。ユカイさんは背筋を伸ばし、それまでの柔らかな笑顔から一転、表情を引き締めてこう話した。
「夫婦共働きが普通になってきた今の世の中。女性がいったん仕事を落ち着けるのが30歳としたら、高齢出産と言われる35歳まで5年しかない。旦那の男が俺みたいな無精子症だったら、治療を受けないままいくら努力しても無駄になる。ファミリーをつくりたい気持ちが少しでもあるなら、気楽に不妊検査を受けてみてほしい。男性不妊の存在を知っていて損はない。知っていれば悔いのない人生を送れる」