特定の民族や人種に対するヘイトスピーチ(憎悪表現)解消に向けた推進法が2016年5月24日、衆院本会議で可決、成立した。主に在日朝鮮・韓国人へのヘイトスピーチを念頭に置いている。
韓国メディアは、法律を「嫌韓デモ抑制法」と位置づけ、成立を評価しているものの、罰則規定が盛り込まれなかったことから、実効性に疑問を呈する声も相次いでいる一方、日本では産経新聞の独自の主張が目を引くこととなった。
韓国メディアは「期待」と「疑問」の両論
成立した法律はヘイトスピーチの解消を目指す理念法で、国や地方自治体に対して相談体制の整備や啓発活動など、必要な対応に取り組むことを求めている。ただし、憲法で保障している表現の自由との兼ね合いで、禁止規定や罰則は盛り込まなかった。
法律では、ヘイトスピーチを受ける人を
「専ら本邦の域外にある国若しくは地域の出身である者又はその子孫であって適法に居住するもの」
と定義し、ヘイトスピーチそのものについては、
「差別的意識を助長し又は誘発する目的で公然とその生命、身体、自由、名誉又は財産に危害を加える旨を告知するなど、本邦の域外にある国又は地域の出身であることを理由として、本邦外出身者を地域社会から排除することを煽動する不当な差別的言動」
とした。
法律の成立を、韓国メディアは一斉に伝えた。聯合ニュースは
「嫌韓デモ抑制のための意味のある第一歩になるという期待の声が出ている」
「実効性が疑問視されるという指摘も少なくない」
と報じている。聯合ニュースは別の記事で、民進党の有田芳生参院議員のインタビューも配信。その中で有田氏は
「ヘイトスピーチをしてはならないという点を宣言したことが最も大きい。ヘイトスピーチの抑止力として作用する」
などと法案成立の意義を語った。
反面、京郷新聞は、
「禁止規定と罰則がないため、実効性が疑問視されている」
と指摘。ハンギョレ新聞は、6月5日に川崎市で嫌韓デモが予定されていることを紹介しながら
「在日同胞が集まって住んでいる地域の悩みは深まるばかり」
と報じるなど、法律ができても被害は収まらない可能性に危惧を示している。
産経「正当な主張が『差別的言動』と『糾弾』される恐れ」
韓国外務省の趙俊赫(チョ・ジュンヒョク)報道官は5月24日の記者会見で、法案成立を韓国政府として評価するとした上で、
「今回の法案成立を契機に、私たちの同胞を含む、日本で生活しているすべての日本以外の出身者が、より安全に生活できる環境ができることを期待している」
などとより実効性のある対応を求めた。
一方、日本メディアは大半が法案成立を歓迎しているが、例外なのが産経新聞だ。産経は5月25日の3面の解説記事(東京本社版)の中で
「南京事件や慰安婦問題などをめぐる日本側の正当な主張が『差別的言動』『侮蔑』と『糾弾』される恐れもある」
と主張し、中国や韓国との歴史問題を念頭に、この法律が表現の自由を脅かす、という強い懸念を示している。