歌手で俳優のダイアモンド☆ユカイさん(54)といえば豪快、ユニークなキャラクターでお茶の間を賑わせている。一方で、苦労を経て子を授かった「父親」の顔がある。
無精子症――。かつてユカイさんは、精液中に精子ができなくなる男性不妊症と診断された。約4年にわたる治療の末にそれを乗り越え、今や三児の父となった。J-CASTヘルスケアの単独インタビューにユカイさんは、メディアで見せるイメージとは少し違った優しい表情で、男性不妊について語ってくれた。2回にわたりお届けする。
「こうのとり大使」二つ返事でOKしたわけ
上田清司・埼玉県知事「『ユカイさんの言ったことを実践したら、子作りがうまくいった』という夫婦が増えるのを期待しています」
ユカイ「(不妊治療は)夫婦共に取り組んでいかないと、解決しないと思います」
こんな会話が埼玉県庁舎の知事室で交わされたのは2016年5月23日、ユカイさんが不妊治療を啓発する「埼玉県こうのとり大使」を県から委嘱され、就任式が行われた時だ。県は少子化対策のため、男性不妊への治療費助成に力を入れている。ユカイさんはこれまでも自発的にブログや講演会で不妊治療を広く知ってもらおうと発信を続けてきたが、今後は県ウェブサイトや広報紙にも登場し、妊活や子育てのアドバイスをしていくという。
「俺は小学生から大学生まで、青春時代を埼玉で過ごしてきた。県から『こうのとり大使』を打診されたときは、良い話をいただいたと思ったよ。二つ返事でOKした」
快諾の裏には、長きにわたる自身の不妊治療の経験がある。
男性不妊の認知度は低い。WHO(世界保健機関)の調査によると、不妊の原因の48%、約半分が男性にあるが、不妊治療に取り組むのはほとんどが女性で、男性不妊は存在自体知られていない。ユカイさんが経験した無精子症は自覚症状がなく、検査を受けないと気がつかない。日常生活に支障も出ないので、見過ごされているのが現状だ。
ユカイさんも「男性不妊」という言葉自体を知らなかった。奥さんと妊活するにあたって、「一応やっておくか」程度の気持ちで不妊検査を受けたところ、無精子症と発覚した。
「男であることを否定された」
当時の絶望感をそう語る。だが、自身で男性不妊について調べるうちに「100人に1人は無精子症」と知った。「そんなに珍しいことでもないし、恥ずかしがることでもない」。名前は無精子症だが、精液中に精子がないだけで、精巣内に1つでも精子があればそれを採取して子どもができる可能性がある。知れば知るほど、勇気がわいてきた。
子を授かるには「WILL」が必要
しかし、不妊治療は困難を極めた。高齢の親や親戚には理解されないと思い、相談を誰にもしていなかった。「顕微授精」という、男性の陰嚢を切開して精子を採取し、女性からも卵子をとって、顕微鏡で見ながら体外で授精する手法を用いた。だが、成功率は20~40%と言われており、ユカイさんも2度失敗した。
「夫婦関係もギクシャクしちゃって、だったらもうやめようと、一度挫折したよ。別れようという話まで出た。辛かったね。気分転換で旅行したり、夫婦で子どもがいない人生も話したりしたけど、『最後にもう一度だけ挑戦したい』と妻に言われた。最後ならということで、男性不妊治療の第一人者がいる北九州の病院を探して行ったんだ。そこで治療したら、奇跡的に子どもを授かることができた。8年程前に治療を始めて、子どもができたのが7年前」
念願の子宝に恵まれた。何を思ったのだろう。
「嬉しいってのは当たり前だけど、それ以上に感じたのは、子を授かるには『WILL』、意志が必要だってこと。俺たちは一度挫折した。でも、夫婦で支え合ってコミュニケーションを取り続けてきたから、もう一度挑戦できた。2人で不妊治療を乗り越えて絆が深まって、今ではプラスになってるよ」
ユカイさんの表情は、一気にほころんだ。
2010年2月、47歳にして初めての子が生まれた。その後、「俺の使命だ」と、自身の経験を伝える活動を始めていくことになる。(後編に続く)