アートディレクターの戸田正寿さんが考案し、慶應義塾大学理工学部の小池康博教授の理論で実現した「光る板」Lightface(ライトフェイス)が完成し、2016年5月25日、大日本印刷、日東光学、ライトダ、ジェイ・キャストの4社が共同で発表した。大日本印刷が総販売店として市場開拓を始めるが、応用範囲が広い次世代発光パネル・照明器具として注目される。
蛍光灯に比べて長い寿命や高い環境性能などをウリに、「次世代の照明器具」としてLED照明の普及は急速に進んでいる。日本照明工業会は2020年までLEDの出荷割合を100%にする目標を打ち出しているほか、政府も30年までに普及率をほぼ100%にする計画を固めている。しかし、課題もある。
アートディレクター戸田正寿氏が見かけた「光の壁」が原点
「高輝度」「長寿命」「環境性能」「低紫外線量」――。照明器具メーカーの公式サイトなどをみると、LEDが持つ長所が数多く紹介されている。だが、LEDは一般に、「光のムラ・バラツキ」や「演色性」(太陽の光にどれくらい近いか)などに課題を抱えていた。
そこで、面全体を光らせる「発光パネル」が登場したが、照らす範囲が広がる分、光のバラツキが目立つ。照明器具の大手メーカーも、パネル型のLED照明器具はあまり扱っていない。ライトフェイスは、こうしたLED発光パネルの抱える「光のムラ」を克服した新商品といえる。
戸田さんは伊勢丹のロゴや週刊誌AERAの表紙などで知られるアーティスト、アートディレクターである。数年前、渋谷のブランド店でLEDを光源にした「光る壁」を見て、もっと薄い「光る板」を作りたいと思い立った。
様々なメーカーに当たり、日東光学にたどり着いた。諏訪市にある世界的なレンズメーカーである。同社は諏訪市出身の小池教授との共同研究で、光散乱理論を具体化する板状の発光体を試作していた。小池教授はプラスチック光ファイバーのパイオニアだ。
厚さ11ミリ、継ぎ目なくパネルの大きさを調節できる
完成したライトフェイスの特徴は、薄く、軽く、美しい光だ。厚さは11ミリ、形状は300×600ミリで重量は2.9キログラムと軽い。額縁状の枠がなく、板の縁まで発光する。複数枚をつなぎ合わせて大きなパネルとして使える。
発光面上で最も明るい箇所と最も暗い箇所の照度比を表す表面均一度は90%超。見る角度や場所を問わず均一に発光するため、照明器具としてだけでなく、バックライトに使うと、アート作品を鑑賞するインテリアにもなる。パネル表面に特殊立体印刷を施すことで油彩画の凹凸や陰影など、原画の細部を忠実に再現できる。
ライトフェイスの公式サイトには、モナリザや、伊藤若冲の『鳥獣花木図屏風』が特殊印刷されたライトフェイスが紹介されている。
製品の薄さから屋外の展示ボード、自動車や列車の照明、建築用の光るボードとしての可能性も秘めている。
戸田さんは、「LED照明は、科学者、技術者が考え、作ったが、今回はクリエイターが照明の概念を変えた。人類は光のカンバスを手に入れたといえる」と話している。