熊本地震から1か月がたった。家を失って今も避難所で厳しい生活を強いられている人は少なくない。一方で地震直後から、2011年の東日本大震災で得た教訓を生かした支援活動や情報発信が見られる。そのひとつがインターネットの活用だ。
情報に簡単にアクセスできない「災害弱者」や、外部に被災地の現状を伝えたい人にとって、ネットは大きな役割を果たしている。J-CASTニュースは熊本各地で、「震災とネット」を主要テーマに取材した。1回目は、甚大な被害を受けた南阿蘇村で奮闘する「阿蘇猿まわし劇場」だ。
本震直後に投稿、「いいね」1万1000件
舞台に登場した「くり松」は、芸歴14年のベテランのサルだ。竹馬や玉乗りをこなし、軽々と宙返りをしてみせる。調教師のかき松さんに抱きついたかと思えば、プイっと横を向く。凸凹コンビのコミカルな掛け合いが楽しい。もう1匹は、若干1歳の「まさる」。元気いっぱいに舞台を駆け回り、小さな体で障害物をジャンプして乗り越えてみせた。
芸達者なサルたちの動きは、普段なら大勢の観客をわかせるだろう。だが記者が訪れた5月18日は1日1回だけの公演にもかかわらず、観客はたったの2人。収容人数600人の劇場で、あまりに寂しい光景だった。
阿蘇猿まわし劇場は、2016年4月16日未明の本震で天井の一部がはがれて客席に落下した。スタッフは、おびえた様子のサルたちを「猿舎」からいったんワゴン車に移して、いざとなればすぐに避難できる体制をとった。幸い調教師とサルたちは全員無事で、園内を確認すると物の散乱は見られたが大きな打撃は免れた。
園長の村崎英治さんをはじめ劇場のスタッフは、本震直後は「早く設備を修復して安全性を確保し、営業を再開させたい」の思いが強かった。だが、次第に誰もが地元・阿蘇を襲った深刻な被災状況を知る。多くの家屋や建物が倒壊し、大規模な土砂崩れが発生。阿蘇大橋は崩落し、現場の映像はテレビで繰り返し流された。
村崎さんは翌4月17日、劇場の公式フェイスブックにこう投稿した。
「自衛隊をはじめ警察、消防、レスキュー隊、ボランティアや県や村役場、地元の方などの方が現地に来られて助けてくださいます。心より感謝申し上げます。私達猿まわし劇場は、前を向いて明るく舞台復帰を目指します!」
観客から提供された食料をアスファルトの上に置き、村崎さんと1匹のサルが深々と頭を下げている写真が添えられている。
地震前のフェイスブックは、サルたちの日常を紹介するほのぼのとした内容で、「いいね」やコメント数は多いとはいえなかった。ところがこの投稿はみるみる拡散。「いいね」などのアクションも1万1000件を超え、コメントは3400件以上が送られてきている。
「不安な時期に暖かい激励が寄せられ、心に深くしみました」(村崎さん)