東京都小金井市のイベント会場で、音楽活動をしていた大学生・冨田真由さん(20)がファンの男(27)に刺傷された事件から3日。マスコミが報じる、冨田さんの肩書きの「ブレ」が目立ってきた。
「アイドル」「アイドル活動をしていた大学生」「元アイドル」「シンガーソングライター」とさまざまで、見出しと記事中で違う場合も多い。そうした状況の中、「アイドル(活動)とは何なのか」といった根源的な疑問もネット上で浮上しつつある。
専門家も「あいまいな肩書き」に苦言
16年5月21日の事件発生以降、ほとんどの報道機関は冨田さんを「アイドル」と判断しているようだ。それを証明するかのように、多くの電子版記事の見出しに「アイドル刺傷」の言葉が踊る。
一方、記事中では「私立大3年でアイドル」(24日付東京新聞電子版)、「大学生でアイドル活動をしていた」(21日付日本経済新聞電子版)、「元アイドルで大学生」(21日付TBSNews)、「『地下アイドル』として活動しているタレント」(22日付サンケイスポーツ電子版)と分かれている。結局のところ、「アイドル」の定義や「アイドル活動」をしていた時期についての認識は、媒体ごとにバラバラなのだ。
冨田さんはかつて、5人組のガールズユニット「シークレットガールズ」のメンバーとして活躍。しかし、最近は作詞・作曲まで手掛けるシンガーソングライターとして活動していたという。そうした背景が知られるにつれ、「女優・シンガーソングライター」(24日付サイゾーウーマン)といった肩書きも登場し始めた。
識者も、報道記事の「あいまいな肩書き」に苦言を呈する。プロインタビュアーの吉田豪さんは23日、
「冨田真由さんはもともと女優で、番組でアイドルを演じた流れで企画物ユニットでCDを1枚出して、その後はシンガーソングライターをやっている人なので、彼女をアイドルと呼ぶのは不適切」
とツイート。
アイドルファンとして知られるニッポン放送の吉田尚記(ひさのり)アナウンサーも、自身がパーソナリティーを務める24日未明放送のラジオ番組「ミューコミ+プラス」で
「(冨田さんは)ギターを持っている画像とかがブログにあったりして、シンガーソングライターとして活動している。(マスコミ報道には)アイドルの現場って恐ろしいことが行われていますよ、という無意識の誘導がある」
と違和感を表明した。冨田さんは「アイドル」ではない、という見方もある程度共有されているようだ。
「オタクががっつけばアイドル」?
そしてここから派生し、「アイドル活動」や「アイドル」とは何ぞや、といった趣旨の疑問を呈する向きもある。
例えば、「はるかぜちゃん」ことタレントの春名風花さんは24日のツイッターで、
「アイドルの定義ってなんだろう ぼくには(冨田さんの)活動内容がどうみても舞台女優寄りにみえるんだけど 世間的には若くて女の子で芸能活動してたらみんなアイドルってこと?」
と疑問を投げかけ、これにファンが「崇拝されるとその人はアイドル」「はるかぜちゃんも『アイドル』になる」といった声を寄せている。
また、アイドル評論家の掟ポルシェさんは同日のツイッターで
「どんな対象でもヲタ(オタク)ががっつけばアイドルには成り得る」
と独自の分析を披露した。
こうして見る限り、マスコミの間でも識者の間でも定義が違う。そんな主観的であいまいな存在こそが、「アイドル」なのかもしれない。